夜勤明け

妄想小説

深夜病棟


 十一

 「千春ちゃん。終わったわよ、樫山さんの点滴針の交換。」
 「あ、神藤先輩。ありがとうございます。私じゃ自信なくて。助かりました。すぐに行こうと思ったんですけど、別の用をいいつけられちゃって。」
 「いいのよ、千春ちゃん。私も直ぐには帰りたくなかったものだから。ちょうど良かった。ねえ、当直だった脳神経外科の池田先生、もう帰ったかな?」
 「ああ、さきほど戻られました。池田先生、あんまりお好きじゃないんですよね。」
 「まあ、そういう訳でもないけど。ちょっと苦手なの。」
 「そうなんですね。お疲れさまでした。」
 桂木千春は夜勤を終えて帰ってゆく先輩の後姿を見送ったのだった。

 「あ、樫山さ~ん。」
 後ろから明るい聞き覚えのある声がする。急いで後ろを振り返った琢也は一瞬フラッとして足元が覚束なくなった。
 「あ、危ない。」
 咄嗟に千春という看護師が飛びついてきて琢也の肩を支える。転びそうになった琢也は慌てて近寄ってきた看護師に抱きつく。ふわっと柔らかい感触に驚いて、見ると、若い看護師の胸元を掴んでいた。

胸掴み

 「あ、ごめんなさい。」
 慌てて手を放した琢也だったが、看護師の方はしっかりと琢也の肩と二の腕を捉えていた。
 「大丈夫ですか、樫山さん? 今、ふらっとしたでしょう?」
 「ああ、急に振向いたもんだからそのせいだな。急に動いちゃいけないって先生に言われていたんだが、つい・・・。」
 「ごめんなさいね。私のほうもいきなり後ろから声を掛けちゃったから。点滴、どうなったかなって気になっていたので。」
 「ああ、君の先輩の神藤さんって言ったかな。彼女が刺し針ごと換えてくれたよ。」
 「ああ、良かった。私じゃ自信がなかったんで代わって貰ったんです。神藤先輩、上手だったでしょ?」
 「ああ、そうだね。」
 琢也はその神藤先輩が失敗して針の刺し直しをしたことは伏せておくことにしたのだった。
 「これから朝の検診ですよね。大丈夫かしら?」
 「ああ、もう大丈夫。独りで行けるよ。急に振向いたりしなけりゃ、もうふらつくことはないと思うよ。」
 「そうですか。ではお気をつけて。」
 いきなり胸を掴まれた千春だが、樫山が転倒するのではとそちらばかりが気になって間に合ってよかったと胸を撫で下ろしていたのだった。
 (ぺちゃんこな胸だと思っていたのに、案外あそこは豊満なんだな。)
 琢也のほうはナース服の上からではあるが、思わず掴んでしまった千春の柔らかい乳房の感触をもう一度思い返しながら病棟の奥にある診察室へ向かったのだった。

茉優

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