ブルマ走り

妄想小説


走る女 第一部



 九

 自分が決めたルーティーンの外周コース2周を走り終えると家の方に戻ろうとしかけたが、何となく虫の知らせのようなものを感じて、昨日の女子トイレの個室に何も貼ってないか念の為に調べておこうと考えた莉緒だった。
 さり気なく用を足しに入る振りをしてスタンド下の女子用外トイレの扉を潜った莉緒は前回と同じ個室の扉をそおっと開いてみる。
 (よかった。何も貼ってないわ。)
 そう思って戻ろうとしてふと、壁の上の方に小さな紙切れがセロテープで貼り付けてあるのに気づいてしまう。用を足しに個室に入って便器に座ってしまえば目線のかなり上の方にあるので気づかないかもしれない。しかし前日紙が貼ってあった場所を知っている莉緒はその辺りを少し見上げるように見た時にその小さな紙切れを見つけたのだった。
 手を挙げてそれを剥してみると、鉛筆で小さな文字が書かれていた。
 <縄を置き去りにした場所>
 普通の人には何のことかさっぱり分からずにそのままにしたであろうその走り書きに莉緒はすぐにピンと来た。自分を縛っていた荒縄を持ち帰る訳にも行かず、外のゴミ入れ籠に投げ入れておいたことを思い出す。
 (まさか・・・。)
 嫌な予感にかられながらトイレを出て外のゴミ入れ籠を目指す。ゴミは殆ど入っていなかったのだが、紙を丸めたようなものが一個だけ入っている。莉緒は手を伸ばしてそれを拾い上げ、おそるおそる丸めた紙を広げてみる。
 <北側の柵が開いているからそこから入ってグランド中央で1分間トランクスを膝まで下して立っていろ>
 同じ様な金釘流の文字でそう書かれていた。
 (え、どういう事・・・?)
 明らかに自分に宛てたメッセージに違いなかった。トランクスの下はノーパンで来るよう命じられているのを知っているのは自分を陥れた犯人以外に有り得ないのだ。
 グランドの外側をスタンドの壁沿いに歩いていくと、グランド内に入るゲートがある。普段は錠前が掛かっていて無断で中には入れないようになっていた。それがその日に限って錠前が外されているのだった。辺りを見回して誰も居ないのを確かめてから、さっと身をゲート内に滑り込ませる。グランドは想像どおりがらんとして人っ子一人居ない。とぼとぼとグランド中央付近まで行ってからぐるっと辺りを見回してみる。空っぽのスタンドにも誰も居る気配がない。しかし何処かの物陰に潜んで自分を見張っていないとも限らないのだ。グランド四隅にあるゲートを注視するがグランドの外からは一応死角になって見えないようだった。
 命令に従う他はなかった。

莉緒

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