妄想小説
走る女 第一部
十三
「あ、いやっ・・・。」
男の指が恥毛をすり分けて、割れ目の中に闖入してきた。それでも莉緒は乳房を露わにするようにブラジャーを持ち上げた手を放すことが出来なかった。男に身体の全てを差し出すようにせざるを得ないと感じたのだった。男は中指の先を鉤型に曲げるようにして陰唇の奥をまさぐり、クリトリスの裏側を擦り上げる。
「ああっ・・・。」
思わず声が出てしまうのを莉緒は抑えきれなかった。
その日は散々陰唇を濡れそぼるまで蹂躙された後、乳首を中心に乳房もいたぶられ、漸く赦して貰った莉緒だった。次の日も同じ時間に来るようきつく言い渡され、帰ることを許されたのだ。
帰り道はランニングウェアなので走っていないと周りから異様な目で見られるにも関わらず、もう走る気力もなく、うなだれてとぼとぼ歩くしかなかった。完全な敗北だった。自分を窮地に立たせた男の証拠を掴んで立場を逆転させるつもりだったのが、性奴隷として服従することを誓わされてしまったのだ。てっきり貞操も奪われるのだと覚悟したが、男は愉しみは取っておいてじっくり自分をいたぶるつもりらしかった。マンションに戻って下着を替えようとして、その中心部分が自分が洩らした体液で汚れて、くっきり沁みになっているのに気づいて、改めて敗北と屈辱を再確認させられた莉緒なのだった。
翌日も夫は通常勤務だったので莉緒が総合グランドへ出る時間にはもう出勤していた。例え居たとしても夫に相談出来る話ではなかった。夫に発覚してしまう前に何とかしなければならないと考えるものの、状況を打開する手立ては思いつかなかった。
(今はただ、耐え忍んでチャンスを待つしかないのだわ。)
悲壮な思いで、今度はどんな命令が下されるのかと怯えながらいつものランニングウェアに着替えてマンションを後にした莉緒だった。
いつものルーティーンのグランドの外側周回路を2周するまでは何も起こらなかった。
(今日はあの管理人は休みなのかもしれないわ。)
淡い期待を抱いた莉緒は北側のゲートが見えてくる直前で、その期待がもろくも崩れていくのを認めざるを得なかった。男がゲートのすぐ傍で壁に寄りかかって明らかに莉緒が来るのを待っているのだった。男が見えてから莉緒は速度を緩め、最後は歩くようにして男に近づいていった。それは知らない者から見れば、単なるクールダウンで息を整え始めたようにしか見えなかったかもしれない。しかし、莉緒にしてみれば男に対峙するのに覚悟を決める必要があったからに過ぎない。
「あ、あの・・・。」
先に声を掛けたのは莉緒のほうだった。しかし男は声では答えずに、顎をしゃくってゲートの中に入るように合図する。ゲートの錠前は既に外されていた。莉緒が先に誰も居ないグランド内に入ると、背後でキーッというゲートが閉じられる音に続いてガチャリという如何にも錠前を掛けたらしい音が聞こえてきた。莉緒は男を見るのが怖く思われて振り向く事も出来なかった。男はゲートからスタンドの方に上る階段を昇るように再び顎で指示する。階段を昇るとゲートの外からは死角になって見えないのだ。その死角の中に莉緒が完全に入ってしまうと何やら小さな布製のものを手渡される。
「えっ?」
怪訝そうに男が手渡すものを掴んでみると、飛行機などで配られるアイマスクのようだった。再び男の顎が動く。着けろという意味だと直ぐに悟って、おそるおそるアイマスクを目に当てる。ゴムの紐を後頭部に回すとすっかり視界を奪われてしまう。アイマスクから下ろした手首が急に引かれてそこに何やら巻きつけられる。すぐもう片方の手も取られて両手を合わせるようにさせられる。
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