妄想小説
走る女 第一部
四十三
ノーパンになってしまうと、スカートがあらためて短いことに心許なさを感じる。
「こんな格好で走るのですか?」
「ふふふ。そうだ。スカートが捲れないように、せいぜい気をつけることだな。」
男が冷たくそう言い放つ。男にテニスラケットと脱いだショーツなどを奪われると、そのまま莉緒は走り始めるしかないのだった。
グランド外側の周回路を走り始めてすぐ、莉緒は散歩する人、とりわけ男性の目を否が応でも惹いてしまうのを感じざるを得ない。いつもの力強い走りは出来ず、極力身体が上下に触れないように小刻みなピッチで走りを続ける。しかしゆっくり走っていれば、恥ずかしい格好を晒す時間がそれだけ長くなることも分かっていた。気持ちは早くスタンド下の建物の中に滑り込んでしまいたいのだが、男性からの好奇の目からも女性からの冷たい侮蔑の視線も痛いように感じながら気がつかない振りをして走り続けたのだった。
一刻も早くランニングパンツとショーツを返して貰おうと最後のコーナーを曲がって半地下への入り口が見えてくるところまで来て、男が既に半地下から外に出て待っているのを見つける。
次第にスピードを緩めながら男に近寄っていくと、男は既に自分のランニングパンツとショーツを手に握っている様子だった。
息を整えながら早歩きぐらいのスピードになって男の前まで来ると、何故か男の前には水溜りが出来ている。
(雨が降った訳でもないのに、どうしてあんなところに水溜りが・・・。)
莉緒が不審に思いながら、自分の下着を受け取ろうと手を伸ばした瞬間、男は手にしていたものを水溜りに向けてぽいっと投げたのだった。
「あ、何するのっ。」
慌てて拾い上げようとする莉緒に男がにやりとする。
「おい、後ろから見られているぞ。」
はっとして後ろを振り向くと散歩をしていた老人たちが自分の方を注視している。迂闊に腰を屈めたのでスカートの中が覗いてしまっていたのだった。
「きゃっ。」
慌ててスカートの裾を抑えるのだが、しっかり見られたのは間違いなかった。
(ひどいわ。)
男の企みに気づいて、睨みつけながらアンスコとショーツを拾い上げようと手を伸ばすが、それより一瞬早く男の足が水溜りの上の落ちてしまったそれを踏みつけてしまったのだ。
「あ、やめてっ。」
しかし莉緒のアンスコとショーツは水溜りの中でぐっしょりと水溜りの水を吸い込んでしまっていた。男が一歩退いたのでポタポタと水滴の落ちるショーツとアンスコを拾い上げて半地下の方へ飛び込んでいった莉緒だったが、最早それを穿いて帰ることは出来そうもないのを思い知るのだった。
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