妄想小説
走る女 第一部
三十
「ね、こっち来て。」
莉緒は自分からトオルの寝室へ導いてズボンの前に跪く。すでにズボンの中では硬くなってきているのが明らかだった。チャックを下ろしてズボンとトランクスを押し下げ、指で輪を作って根元をぎゅっと抑え、カリの下側から舌を使って舐めはじめると、気持ちよくなってきたらしく、大きく頭を仰け反らせて呻き声を挙げる。
「で、どうやって夫のセックスを逃れたんだ。」
男は莉緒の窮地を愉しんでいるかのように質問してきた。嘘を言っても無駄だと観念していた莉緒は正直に話すことにした。
「こちらからフェラチオを申し出るしかなかったわ。さもないと押し倒されて縛られかねなかったから。」
「よくフェラチオだけで我慢出来たものだな。」
「生理が来たって嘘を吐いたのよ。そうでも言わないと・・・。」
「生理か。なるほど・・・。で、お前の本当の生理は何時なんだ?」
「どうしてそんな事、訊くの?」
莉緒は嫌な予感に駆られた。
「正直に答えるんだ。さもないと・・・。」
「うっ、わかったわ。多分二、三日中には来ると思うわ。」
莉緒は先月の事を思い出しながら、そう白状するのだった。
「ねえ、お願い。ひと晩が精一杯よ。これ以上は騙しおおせないわ。これをもう外してください。」
「だったらもう一度男子トイレへ行くんだな。」
ここで男に逆らえば一生外して貰えない気がして、びくびくしながらももう一度男子トイレに飛び込むことにしたのだった。もし誰かが入ってくる気配がしたらすぐに個室に飛び込めるよう心積もりをした上で男に命じられるままランニングパンツを下ろして貞操帯の嵌った股間を露わにした莉緒だった。
「さあ、貴方の言うとおりにしたわ。これで満足でしょ? お願い、もう外して。」
「まだ、駄目だ。外して欲しかったら着てるものを全部脱いで素っ裸になってここで土下座してみろ。」
トイレの床の上で裸で土下座しろと言われて、さすがに莉緒は躊躇う。しかしぐずぐずしていると何時、誰かが来てしまうか分からなかった。
「裸になって土下座したら、外してくれるのね。判ったわ。」
そう言うと、莉緒は穿いていたランニングパンツもシャツも脱ぎ捨てるのだった。
「ご主人様、どうかこの腰のものを外してくださいませ。」
それは屈辱的な仕打ちだった。しかし貞操帯を外して貰う為ならそれもいとわない莉緒だった。
「いいだろう。立って両手を後ろに回しな。」
股間の前部分を男の前に突き出すとそこに付いている鍵穴に男が鍵を差し込む。カチンという音がして、すっと腰の周りが楽になるのが感じられた。男が貞操帯を取り外すとやっとの事で戒めから解放された気がした。その時男子トイレのドアがガチャリと開かれる音がしたのだった。
(いやっ。)
声が出そうになるのをかろうじて呑みこんだ莉緒は慌てて個室に飛び込む。その際に自分が着ていた服を取り忘れてしまったのだった。
「あ、済みません。ちょっと持ってたものを取り落としてしまって。」
慌てて閉めた扉の向う側で、男が床から莉緒が脱ぎ忘れたものを拾い上げているらしかった。
「ああ、別に大丈夫ですよ。」
入ってきた別の男は特に不審がった風もなかった。再びトイレのドアが開いて閉じる音がする。そのすぐ後に、誰かが放尿を始めた音がしたことから、出て行ったのは管理人の方だと分かる。その事で、莉緒は素っ裸で男子トイレの個室に取り残されてしまったことを知ったのだった。
(どうしよう。これじゃ、外に出ることも出来ないわ。)
莉緒には管理人の男が服を持ってきてくれるのを期待するしかないのだった。
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