妄想小説
走る女 第一部
四十二
その頃、莉緒はいつものランニングに出るのに着て行くウェアのことでまだ逡巡していた。前日管理人室を出る時に次に着てくるように渡されたものが莉緒を当惑させていたのだ。それはあまりに短いテニス用のスコートのようなミニスカートなのだった。
ミニスカート自体は考えようによっては莉緒がいつも使っているショーツタイプのランニングパンツよりは少しだけ露出度は低いのかもしれない。しかし男の目からすればそれ以上は見えそうもない剥き出しのランニングパンツより、翻った場合にその下に下着が覗けるかもしれないというスカートの方が何倍も性的な興奮度合が高いことは女である莉緒自身にもよく分かっていた。実際、ランニングショーツの下半身を見られるより、スカートの下のパンツを覗かれてしまう方が比べ物にならないくらい恥ずかしいことだったのだ。それを男はよりによって、超ミニのスカートでランニングをしろと命令してきたのだ。ランニングはどうしても上下の動きが加わるので、じっとしているよりも更にスカートの裾は翻りやすい。男の目的は自分を男たちの欲情の餌食にすることで辱めて愉しみたい事なのだと分かっているだけに逆らえない命令であることが口惜しいのだ。
最後に莉緒はボックス型のランニングパンツをアンダースコートの代りに穿いてゆくことにした。ショートパンツの裾部分が短いもので、これなら普通に立っていれば穿いているとはばれないし、万が一スカートが翻っても下着には見えない筈だと思ったのだ。
市立総合グランドまではいつも走っていくのだが、住宅街を通り抜けるのでさすがに変に思われると思って大学時代に使っていたテニスラケットをカバーに入れて、いかにもこれからテニスコートに向かうのだというのを装うことにした。超ミニのスコートはテニスウェアとしてはそれほど変には見えない格好だったからだ。スカートが翻るといけないので走らないで、歩いて向かうことにした。グランドの敷地内に入ってテニスラケットを適当な物陰に置いてから走りはじめようとした時に、周回路の先に男が立って自分の方を睨んでいるのが目に入ってしまうと、無視して走り始める訳にゆかず、ラケットは持ったまま男の方に近づいてゆかざるを得ない莉緒だった。
男は近づいてきた莉緒にスタンド下の半地下へ降りるように顎で指図する。
半地下の廊下で男は莉緒の剥き出しの太腿を射すくめるように見ていた。それだけで莉緒は恥ずかしさが込み上げてくるのを感じる。しかし男の命令はそれだけでは済まないものだった。
「スカートを持ち上げてみろ。」
男の命令は非情だった。莉緒は従わない訳にはゆかない。
「何だ、そのスカートの下に穿いているのは。」
「あ、アンダースコートです・・・。」
「そんなものを穿いていいと何時言った?」
「そ、それは・・・。でも・・・。」
「すぐ脱ぐんだ。罰として今日はショーツを穿くことも赦さん。ノーパンで走ってくるんだ。」
「そ、そんな・・・。」
しかし男の命令は絶対なのだった。しかたなく莉緒はスコートの中に手を突っ込んでアンスコ代わりに穿いてきたランニングパンツをその下のショーツと共に押し下げる。
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