妄想小説
走る女 第一部
二
最初に見かけた時にショートパンツの奥に覗く下着を穴が開くほど見入っていたのに気づかれてキッと睨まれたような気がして、その後は女の方からは気づかれないように管理人室のブラインド越しに双眼鏡を使って肢体を愉しむようになった好男なのだった。
気づかれないように覗いている走る女の肢体から、その薄っぺらなウェアの下に隠された身体を想像しては股間のモノを硬くさせているのだが、走っている女の方はそんな形で覗かれているとは思いもしないのだった。
西岡莉緒が朝日市に越してきたのは、結婚後間もない頃の夫の急な転勤によるものだった。結婚前に勤めていた会社も続けようか迷っていた時だったので、引越によって勤め先が遠くなることで、まずは専業主婦でやってみて余裕が出てから再就職先を考えようという気になったのだ。しかし専業主婦は思いの外、時間を持て余すことに気づいた。それは夫がまだ勤め先の地方放送局では下っ端の身分で、修行という名目でアシスタントディレクターという名の小間使いをさせられていて忙しかったせいもあった。特に週に三度ほど巡ってくる遅番勤務の日は莉緒がもう寝てしまう夜更け過ぎに帰ってきて朝はずっと寝ているので、擦れ違いの多い毎日なのだった。
そんな独り身を持て余す莉緒が思いついたのは高校時代の陸上部で中距離選手だった頃を思い出してランニングを始めることだった。幸い莉緒達夫婦があてがわれた社宅マンションの近くには市営の運動グランドがあって、グランド自体は球技用なのだが、その周りはジョギングをするには最適なコースが整備されていたこともあった。ロッカールームなどは休日の試合などの際に貸し切られる場合しか開いていないようだったが、莉緒たちの住むマンションからはすぐなので、自宅で運動着に着替えて走り出ても全く問題がなかった。
莉緒はジャージの運動着で走るのはどうしても馴染めなかった。高校時代の陸上競技選手としてのウェアに慣れていたこともあるが、ジャージは運動公園を軽い散歩やジョギングをする老人たちの定番の服装だったからだ。大学時代、OL時代と陸上からは離れていたが、元陸上選手というプライドがジャージで運動する事を許さなかったとも言えた。最初は高校生時代に使っていたウェアを引っ張り出して着てみて、違和感がなかったのですぐにスポーツ店へ行ってお気に入りのウェアをシューズと共に買い求めたのだった。
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