妄想小説
走る女 第一部
二十
莉緒は項垂れて男のほうへ戻ってくる。
「さて、挨拶はどうした?」
「挨拶ですって? ご、ご主人様と言うのですか?」
「そうだ。そうに決まっているだろ。」
「ご、ご主人様っ。あの・・・。ご、ご奉仕させて頂きます。いえ、ご奉仕させてください。」
「奉仕だって? 何をしたいんだ。」
「えっ? あの・・・。わたし・・・。あ、いやっ。夫にもそんな事したことないのに。」
「夫にはしたことが無いのか。すると、その口は処女ってわけだ。」
「口って、やっぱりそうなのですね。・・・。わかりました。ご主人様・・・。わたしに・・・、フェ、フェラチオをさせてくださいませ。」
「どうしてもしたいのなら、やってみろ。」
そう言うと男は机から足を下ろして、立上り莉緒の傍へ近づいてくる。
「さあ、いいぞ。」
口惜しさに唇を噛みながら、男の前に跪くと男の作業ズボンの前チャックを下ろす。
(貴方、赦して・・・。)
心の中で夫のトオルに赦しを請いながら、ズボンの奥から取り出した屹立するその肉棒を口に含んだのだった。
「ふうい。いい気持だったぜ。おっと、吐き出すんじゃないぞ。ご主人様の大切な精液だ。全部呑み干すんだ。」
「ううっ・・・。」
吐き出したいのを必死で堪えて、何とか喉の奥に流し込む莉緒だった。
「お前、フェラチオは初めてか?」
「当り前です。夫にだってそんな事、したことありません。」
「そうだったな。初めてにしてはなかなか上手かったじゃないか。なら旦那には申し訳ないだろ。知らない男にはフェラして精液まで呑みこんだんだから。お前の夫が知ったらさぞかし嫉妬するだろうな。ほら、これっ。今のもちゃんと動画に撮っておいてやったからな。」
「えっ?」
そう言われて莉緒は初めて男がビデオカメラを手にしていたのを知ったのだった。
「いつの間に・・・。」
「今日、帰ったらお前の夫にもしてやるんだな。もうお前の口は俺様の使用済みだからな。そのお古の口で夫も悦ばせてやるんだな。そうだ。いい事を思いついた。お前のスマホで夫のを咥えてやってるところを動画で撮って俺に送るんだ。旦那には気づかれないようにしてな。いいか、ちゃんと送ってこなかったらお前が困ることになるんだぜ。」
(困ることに・・・。どういう意味だろう。)
そう考えていて、さっき男が自分のスマホ内の電話帳を調べていた事を思い出したのだった。
(ま、まさか・・・。)
「じゃ、今日のご奉仕は終りにさせてやる。帰っていいぞ。」
漸く解放された莉緒だったが、自由の身になれたとは到底思えないのだった。
家に戻った莉緒は何度もうがいを繰り返して口の中を漱ぐのだが、あのおぞましい感触は消え去らなかった。男は口の処女と言っていたが、身も心も穢されてしまった気持ちだった。
ふと、スマホの待受け画面の事を思い出して返して貰ったスマホを取り出してみる。もう一度待受け画面を消せないか試してみるが、操作しようとするとパスワードでロックが掛かっていてどうすることも出来ないのだった。
電話帳も開いてみて、『ご主人様』と登録されてしまった番号を消そうとしても同じくパスワードでロックが掛かっていて消す事が出来ない。
(ああ、何て事だろう。もしトオルに見つかったら、何と言い訳すればいいのだろう。)
莉緒は途方に呉れてしまう。
(そうだ。あの男にトオルにもフェラチオをしてやれと言われていたんだわ。それを動画で録れだなんて。そんな事出来るかしら・・・。)
そう思いながら、莉緒はスマホの動画の録り方をおさらいしてみた。
(確かこのボタンを押せばいいのよね。)
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