妄想小説
走る女 第一部
二十一
スマホを操作して動画撮影開始のボタンを押してみる。スマホを机の上の本棚に立てかけておいてそのカメラの正面に立つ。何をしていいのか判らず、莉緒は男に命じられるのを想像しながら自分のスカートの裾に手を掛ける。
(ああ、赦してください。男の人の前でスカートを捲るだなんて。)
莉緒は男に恥ずかしい格好をするように命じられている自分を想像しながらスカートの裾をそろそろっと上へ引き上げてみる。
(ああ、見られている。ああ、恥ずかしい。もう赦して・・・。)
はっと我に返ると、慌てて目の前のスマホのボタンを録画停止にする。おそるおそる再生のボタンを押してみると、自撮りに慣れていないせいでカメラの正面に立った自分の顔が半分切れている。しかし身体は全部映っていて、身体をくねらせるようにしながらスカートを捲っていく自分の姿が確かめられる。それをしているのは自分とは思えないような淫らな格好だった。スカートがたくし上げられると、白いショーツが覗き始める。その淫らな姿に自分自身が感じ入って思わず生唾を呑みこんでしまう。
(夫がこんな格好をみたら、欲情するのだろうか。)
急いで顔半分が切れているその動画を消そうとしてそれも出来ないこをと悟る莉緒だった。
その日は夫のトオルは遅番の日だった。遅番の時は大抵会社で仕出しの弁当や出前の店屋物で済ませて帰ってくるので、莉緒も自分一人だけで夕食を済ませてしまう。いつもは先に寝てしまうのだが、その日はトオルが帰ってくるのを待ち受ける。寝間着には着替えないで、自分が持っている一番短いスカートを穿いて待つことにした。
「お帰りなさい、貴方。いつもより少し早いのね。」
遅番にしては多少帰りが早かった夫を玄関に出迎え、背広とネクタイを取るのを手伝う。
「夕飯は済ませたのでしょ?」
「ああ、出前を取って貰った。お前は?」
「私も済ませたわ。ねえ、疲れてる?」
「ああ、このところ遅い日が続いたからね。」
「そうよね。」
そう言いながら夫が脱いだ靴下を拾いながらわざとミニスカートのままお尻を向けて身体を屈める。夫の視線をお尻に感じる。
「ねえ、あなた。」
「何だい?」
「フェラチオって、知ってる・・・、?」
「えっ、フェ、フェラチオ? そ、そりゃ、知ってるけど・・・。何だい、藪から棒に。」
「あのね、今日。美容室で婦人雑誌みていたら、若妻の投稿記事に書いてあったの。倦怠期に陥らないようにするんですって。そしたら私、してみたくなっちゃって。したことある?」
「い、いや。ないよ、そんな事。」
明らかに夫のトオルは狼狽えていた。
「ね、いいでしょ?」
そう言うと莉緒は着替え途中の夫の前に跪いて、ズボンのベルトを外しチャックを下ろす。ちらっと横目でテーブルの端に置いた自分のスマホの録画ボタンオンを示す赤いランプが点いているのを確認するが、トオルは気づかなかったようだ。
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