トイレ貞操帯

妄想小説


走る女 第一部



 二十九

 「さ、もういいぜ。外に出るんだ。」
 後ろから肩をどんと突かれてトイレの個室から押し出されたようだった。そこで急にアイマスクが後ろから毟り取られる。
 急に明るくなって、目が慣れるのに何度か瞬きをしなければならなかった。そして莉緒は自分の股間に異様なものが巻かれているのを知ったのだった。
 「え、これ、何なの?」
 莉緒は自分の股間に撒かれたものをみて、狼狽える。それは金属と分厚い革で出来ている褌のようなT字帯のようなものだった。腰の周りと股間をしっかりと締めつけていて、どうやったら外せるのか判らない。
 「何をしたの? これ、何?」
 「大きな声を出すな。いつ誰がトイレに入ってくるか分からないんだぜ。」
 ぎくっとして辺りを見渡す。男の声で自分が男子トイレに居る事を思い出す。
 「お願い。すぐに手錠を外して。」
 男にそう懇願している間に、トイレの外で何やら話し声が聞こえる。
 「ああ、じゃトイレ済ませたらすぐ行くから。」
 外から男の声がして今にも男子トイレに誰か入ってきそうだった。
 (いやっ。)
 慌てて莉緒は今出てきたらしい個室に自分から飛び込んで後ろ手で扉をロックする。何人かの男が入ってきた様子だった。それにぎりぎり間に合って取り敢えず安堵の溜息を吐く。しかし自分は後ろ手に手錠を掛けられたままで、腰の周りには異様なものを嵌められていてランニングパンツとショーツは下され、ランニングシャツは胸の上までたくし上げられたままなのだった。
 「ああ、やれやれ。もうオシッコ洩れそうだったんだ。やっと出来てすきっとしたぜ。」
 「小便は身体に溜めると悪いっていうからな。さっさとすっきりさせてあいつらの所へ戻ろうぜ。」
 二人の男が並んで小用を足しながら話しているらしかった。自分に悪さをしたグランドの管理人はどうやら入れ替わりで立ち去ったらしかった。
 莉緒は男二人がまだ外に居るので立ち去るまで音を立てないようにじっと息を潜めているしかなかった。やがて男子トイレのドアが開いて閉まる音が聞こえたので、やっと自分の身を何とかする事を考え始める。手錠を掛けられた後ろ手を何とか伸ばすと引き上げられたランニングシャツにぎりぎり届いて、何とかたくし上げられたシャツを引き降ろすことが出来た。膝まで下ろされてしまったランニングパンツとショーツにはなかなか手が届かなかったが、便器に片足を載せて大きく股を開くことで徐々にパンツを引き上げるのに成功しやっとのことで指先が届いてパンツを後ろ手で引き上げる。腰骨のすぐ下辺りまでしか引き上げることは出来ないのだが、股間丸出しの格好だけは何とか避けられた。後ろ手で個室のロックをそおっと外すと個室の外を窺う。誰も居ないことを確認してから今度は後ろ手で男子トイレのドアを薄く開き外の様子を窺う。誰か来そうな気配があったらすぐさま元の個室に飛び込めるよう心積もりをしながら外へ出るタイミングを見計らうのだった。男子トイレから首だけ出して、外に誰も居ないことを確認してから後ろ手に手錠を掛けられた格好のまま管理人室へ一目散に走るのだった。
 「お願いです。この手錠と腰のものを外してください。」
 肩で管理人室のスウィングドアを押しあけて中に入ると、管理人に土下座をせんばかりに頼み込む莉緒だった。管理人室の自分の机の前に座っていた男は走り込んできた莉緒の様子にさして驚いた様子も見せず平然と振り向く。
 「なんだ。随分と遅かったじゃないか。その格好を愉しんでいるのかと思ったぜ。」
 「愉しむですって。こんな格好、一刻も早く逃れたいのです。早く外してくださいっ。」
 「外してくださいだと? まだお前は自分の立場が分かっていないようだな。この奴隷の分際でっ。あ?」
 「あ、済みませんでした。ご主人様。私が間違っていました。どうか、ご主人様。この両手の戒めと、腰のものをお外し願えないでしょうか。」
 「ふん、やっとわかったようだな。さ、こっちへ来て、そこに膝を着け。」
 男は文字通り莉緒に男の椅子の前で土下座の格好を強いる。莉緒が仕方なく男の前で跪いて頭を低くすると、男が靴のまま、莉緒の頭の上に足を載せるのだった。
 「もっと頭を下げろ。」
 莉緒は口惜しさに唇を噛みしめながら額を床に擦りつけるまで頭を屈めるのだった。
 「もう一度、ちゃんとお願いしてみろ。」
 「あ、あの・・・。ご主人様。どうか、どうかお願いですから、この手錠と腰のものを外しては頂けませんでしょうか・・・。」
 「ふん、まあいいだろう。手錠は外してやる。両手をこっちに出せ。」
 男は莉緒の頭から足を下ろすと、莉緒に後ろ手の両手を突きださせる。ガチャリという音と共に手錠がやっとのことで外される。莉緒はすぐさま腰に手を当てて股間に巻かれたものを何とか外せないかと揺すってみるが、それはびくともしない。
 「お前、それが何だか知っているのか?」
 「あの・・・、わかりません。」
 「そいつは貞操帯というのだ。」
 「貞操帯? それって中世の時代の・・・、あれ・・・ですか?」
 「なんだ。ちゃんと知ってるじゃないか。そうだ。中世の十字軍で遠征に出る騎士が留守中に妻が不貞を働かないように腰に嵌めて外せないようにしたあの道具だ。」
 「どうしてこんなものを私に嵌めるのですか?」
 「ふふふ。お前の夫にセックスをさせない為に決まってるじゃないか。」
 「え、セックスをさせない?」
 「そうだ。お前は昨晩、夫を誘惑して縛って自分を犯してくれと頼んでたじゃないか。きっとあいつは調子に乗って、今晩も縛ってさせろというに決まってる。しかしそれはさせないでおあずけを喰わせるのさ。」
 「どうして、そんな事を・・・。」
 「決まってるだろ。お前はもはや俺の性奴隷で、お前の夫のものではないからだ。」
 「そ、そんな・・・。」
 「お前は一晩、その格好で居るのだ。それを外すことは許さん。外せないからこそ、貞操帯というのだ。」
 「そんな。こんなものを嵌めていたらおトイレにだって行く事が出来ません。」
 「そんな事はない。そのまま垂れ流せばいいのさ。貞操帯は革と金属で出来ているからそう簡単には錆びたり腐ったりはしない。オシッコは垂れ流して後で拭いておけばいいのさ。」
 「そ、そんな・・・。」

 莉緒の必死の懇願にも関わらず、男は聞く耳を貸さずとうとう貞操帯を嵌められたまま莉緒は帰宅を余儀なくされたのだった。
 男が言ったとおり、放尿は貞操帯を嵌めたまま垂れ流すしかなかった。最初はトイレで便器に跨ってしてみたものの、貞操帯の内側を伝ったゆばりはあらぬ方向へ流れていってしまうので、トイレの床を汚す結果となってしまって、次からは風呂場でシャワーで流しながらすることを決心したのだった。
 問題は夫のトオルに気づかれないようにすることだった。夫の性欲を刺激しないようにとスカートは止めて野暮な厚手のゆるいジーンズをきっちりとベルトで締めて穿いておく。しかしそんな日に限って早目に帰ってきてしまったトオルは前日の縄で莉緒を縛ってのプレイで相当性欲を掻きたてられたらしく、帰宅して最初に莉緒を見た時から、目が血走っているようにも見えたのだ。
 夕食を終えるや否や、トオルは莉緒の肩に手を回してきた。
 「なあ、もう一度昨日のやってみようよ。俺、ちゃんと縄も用意しておいたんだ。」
 「え、駄目よ。駄目なの。アレになっちゃったから。最初のうちは量も多いから血だらけになっちゃうわ。」
 「平気だよ。俺は気にしないから。」
 「駄目よ。後始末が大変になっちゃうから。それだったら、また口でしてあげるから。」
 フェラチオを自分から申し出たことで、トオルの感心はそちらに動いたようだった。
 「口の中に出してもいいかい?」
 その代りの条件だと言わんばかりだったが、莉緒はそれを受け入れることにした。トオルに射精させてしまえば、その夜はそれ以上求めて来ないのはこれまでの経験からよく分かっていたからだ。

莉緒

  次へ   先頭へ




ページのトップへ戻る