妄想小説
走る女 第一部
八
ランニングパンツはトランクスタイプのものと、ショーツタイプのものがある。普通の練習にはトランクスタイプを使って、ショーツタイプのものは試合のレースに使うものだ。どちらにしても下にインナーとしてのショーツを別に穿いている。それを脱いで来いというのだった。トランクスタイプはストレッチなどで腰を屈めて脚を伸ばしたりすると、インナーが覗いてしまうことがある。それをノーパンで来いということは迂闊に腰も屈められないことを意味していた。高校陸上部の時に同じクラブの仲間でインナーショーツを持ってくるのを忘れてノーパンで走って写真部の男子に股間の陰毛が覗いている写真を撮られてしまった女子が居た。その写真が密かに男子生徒の間で回覧されていたことを知って、その女の子は陸上を辞めてしまったのだった。
ランニング用のトランクスの下をノーパンで来るというのは、自分も同じ目に遭う可能性があるということだ。
(でも走りに行ってさえいれば、ノーパンかどうかなんてわかる筈はないわ。)
何となく不安を感じながらも、インナーショーツはこっそり穿いたままで翌日は出掛けてみることにしようと決心した莉緒だった。
翌朝、いつもの時間に家からグランドに向かういつもの道から入った莉緒は普段はしているストレッチをこの日に限ってやらないことにした。万が一、どこかで犯人が見張っていてトランクスの脇からショーツが覗いてノーパンでないことに気づかれる惧れがあったからだ。いつものコースをいつも通り二周走って来る。走りながら常に何処かから見張られているような気がしてならない。何処とは判らないのだが、自分に向っている視線を意識しないではいられなかった。
次へ 先頭へ