妄想小説
走る女 第一部
十
ノーパンで来るよう命じられているので、命令に背いたことがばれないようにショーツがトランクスからはみ出ないように気を付けながらそろそろとショーツとトランクスを膝まで下ろす。さすがに誰も居ないとは言っても、真昼間の外で裸の股間を晒さねばならないのは屈辱以外の何物でもなかった。それでも莉緒には命令に逆らうことは出来ないのは重々分っていた。
命令された1分が経ったと思われた所でトランクスを引き上げようとして慌てて先にショーツをちょっと上げ始めてしまい、慌ててトランクスで隠す様にして二枚一緒に穿き直す。入ってきたゲートに急いで戻り、外に人が居ないのを確かめてからもう一度ゴミ入れ籠に戻ってみると、明らかにさっきのものとは別の紙が丸めてある。拾い上げて開いてみると案の定、次の命令が書いてあるのだった。
<命令に背いたな。明日はショーツだけじゃなくブラも外して同じ様にグランド中央で見せること>
(どこかで私をやっぱり見張っていたんだわ。)
うっかり白いショーツを見せてしまったことを悔やんでいたが、最早手遅れだった。二つの丸めた紙切れをしっかり手の中に握りしめて、莉緒は家の方へ向かって走っていくのだった。
次の日、莉緒はランニングに出る前にまだ迷っていた。夫は早番で何時もの時間に既に出勤してしまっていた。ランニング用のタンクトップをたくし上げてブラジャーを露わにしてみる。莉緒の胸は決して薄っぺらなほうではない。ランニングの時はかなりぴっちりしたスポーツブラで無理やり抑え込んでいるので目立たないがどちらかと言えば豊満なほうだと自分でも思っている。
莉緒は意を決して背中に両手を回し、ブラジャーのホックを外す。乳房がぶるんと横に触れるのを感じながら片方ずつ腕をブラジャーから抜き取るのだった。ランニング用の薄手の生地では乳首さえも透けて出そうだった。そして次にはショーツに手を掛ける。足首まで降ろして片方ずつ脚を抜き取ると急いでトランクスを手にする。動きやすいように太腿にぴっちりとはフィットしない緩めの裾が何とも心許ない。こんな格好で走らされるのかと思うと、情けない気持ちになって来る。しかし今度言い付けを破れば、次にどんな仕打ちをされるか判らないので怖くて従わざるを得ないのだった。
市営総合グランドまで軽いランニングでやってきた莉緒はストレッチもせずにそのまま周回コースを走り始める。幸い朝の早いうちだったので、まだ散歩に来ている人は殆ど居ない。さっと走り終えてしまおうと思う莉緒の前方に人影が見えた。掃除用のモップとバケツを手にした管理人のようだった。知らん振りをしてその横をすり抜けようとした莉緒は何かに躓いてしまう。気づいた時には両手を突いてコンクリートの地面に転がっていた。その姿をすぐ後ろから掃除用具を持った管理人らしき男が見つめていた。
「だ、大丈夫ですか?」
男が走り寄ってくる。が、その男の視線が股間に向けられているのに気づいてはっとなって莉緒はトランクスの裾を抑える。
(覗かれたかもしれない。)
莉緒は以前、同じ男にストレッチをしている時にトランクスからショーツが覗いているのを見られたに違いないことを思い出していた。
「あ、大丈夫です。平気ですから。」
莉緒は男が手を差し延べているのを無視して自分で立上る。再び走り出しながら莉緒は何に躓いたのだろうと訝し気に思うが、それらしき物は何も見当たらない。
(えっ? まさか・・・。)
莉緒は次第に遠ざかってゆく管理人の持っていたモップを思い描いていた。
(あの柄の先に足を引っかけたのだろうか・・・?)
ふと頭に浮かんだ事だったが、2周走り終えた後にどうするかが先に頭に残っていた。北側のゲートを走り抜ける時にちらっとだけ門が施錠されているかどうかを確かめる。が、施錠はされているようだった。そして2周走り終えてクールダウンの為、ゲートの手前でスピードを落し殆ど歩くような速さでゲートに近づいて行く。しかしさっきはあった筈の錠前は何時の間にか無くなっているのだった。それを見て、莉緒は命じられたことを実行するしかないことを悟る。
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