トイレ内眠らせ

妄想小説


走る女 第一部



 六

 (い、嫌っ。誰か、助けてっ・・・。)
 大声で叫び出したいのを必死で堪えた。こんな格好を誰かに見られる訳にはゆかないと思ったのだ。莉緒が寝かされていたトイレの個室の扉は開け放されたままだったので、何とか立上って後ろ手の不自由な手で扉を閉めてロックだけは掛けておく。その上で改めて洋式便器の上に座って身体を捩って何とか縄を解こうとする。さほど厳重に縛ってあった訳ではなかったようで、暫くもがいているうちに、縄が少しずつ緩んできた。
 やっとのことで後ろ手の片方が外れ縄を解く事が出来、下ろされていたランニングパンツとショーツを引き上げてしまうまで、トイレの個室のロックを解除することも声を挙げて助けを求めることも出来なかった。結局、誰かに助けを求めることは叶わないまま一人で窮地から脱した莉緒はまず最初に自分の股間に指を当てて触れてみる。その部分を無理やり凌辱されたという感覚はなかった。膣内を強引に犯されたという痛みの痕は感じていなかったし、汚れ物の付着物の形跡もなかった。しかし下半身が丸裸に剥かれていたのは事実だったし、抵抗出来ないように縛られていたの間違いなかった。
 (私を辱めるだけの愉快犯の仕業・・・?)
 そんな事をして何になるのか皆目見当もつかなかった。しかし何時までもトイレの個室に佇んで思案している訳にもゆかないと思った莉緒はこっそりと自分を戒めていた荒縄を手にトイレを出たのだった。
 もうグランドの周りを走ろうという気持ちは完全に失せていて、一刻も早く家へ戻りたかった。手にしている荒縄はその辺に放置する訳にはゆかないと思ったが、家に持ち帰るのも嫌だったので、以前にハンドタオルを捨てていったゴミ入れ籠に放り込むことにした。その時、一瞬(まさかあの時の男の仕業では・・・)という思いが過ぎったのだが、それ以上深く考えないことにしてその場を立ち去ったのだった。

 女を眠らせることにまんまと成功した好男は、急に女が目を覚まして暴れ出した時の事を想定して両手を麻の荒縄で縛ったうえで自由に動け回れないように胸元にも余った縄を廻して完全に女の自由を奪っておいた。その上で、露わな肢体を見せつけて自分の股間を刺激していた下半身の着衣を膝まで下して剥き出しにさせる。そのまま犯してしまいたい衝動にはかられたが、その後のことを考えて寸でのところで思い留まった。しかし次への行動に繋げる為にと思い、そのあられもない姿をデジカメで記録しておくことは怠らなかった。
 (ふふふ。これで、この女は言うことを聞かざるを得なくなるのだ。)
 そう思うと、その時犯せない逸る気持ちを、次への期待へと変化させることが出来たのだった。そして好男は女を下半身剥き出しのまま放置して、さり気なく女子トイレを後にしたのだった。

 その日の出来事は、莉緒にとって夫のトオルは勿論の事、他の誰にも相談出来る話ではなかった。当日は家に戻ると夫は既に昼前の出社の為、家を出ていた。莉緒は何も話さないで済んだことにほっとしてはいたが、自分の中だけに留め置いていられるかも判らなかった。
 取り敢えずその後、当分の間は市営の総合グランドへランニングに出るのは取止めることにはした。しかし何も無くそれで済むことはないのではないかといういいようのない不安に駆られた毎日を送らねばならないのだった。そんな不安が現実のものとなったのはそれからほんの数日後だった。買物に出ようとして莉緒達が棲む社宅となっているマンション一階の郵便受けを何気なく覗いた時に、自分達の部屋用の郵便受けの差し入れ口に何やら茶色の封筒らしきものが半分外に出掛っていて突っ込まれているのを発見したのだった。おそるおそる近づいてみて、それは宛先も書かれていない封をされた茶色の封筒を折り曲げたものだった。嫌な予感がしてさっとそれを抜き取ると、マンションに戻り封を開けてみた莉緒だった。封筒の中から出てきたのはデジカメか何かで撮られたらしい写真をプリントアウトしたものだった。

莉緒

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