妄想小説
美教師を奈落に貶める罠
九
「さてと・・・。昨日の男は臨時の代理だったんで充分取調べが出来ていなかったからな。俺のほうで再度正規のやり方で尋問をさせて貰おうかな。」
「あ、あの・・・。昨日の方にはもう全てお話したんですけど。」
「はあ? お前、俺の話を聞いてなかったのか? あいつは臨時の代理で万引き犯の取調べは慣れてないから遣り直しだっていったんだ。」
「わ、わかり・・・ました。」
薫はここで下手に逆らってはいけないと頭を垂れて、しおらしくしてみせる。
「一応、奴の調書は引き継いではあるがな。えーっと、アンタは井上薫・・・だな?」
「齢は?」
「あ、あの・・・。に、二十八です。」
「ほう? アンタ、高校の先生か。湘西高校っていったら名門校じゃねえか。そんな名門校の若い先生が万引きとはな。」
「ですから、これには事情があるんです。」
「下手な作り話の言い訳はいいから、俺の質問にだけ答えるんだな。」
「うっ・・・。わ、わかりました。」
「おやっ? 警察には届けてないんだな。警察には言わないで欲しいと・・・。」
「ええっ、困るんです。いろんな人に迷惑が掛かってしまうんです。どうか、それだけはご勘弁ください。昨日の方も一筆書いたので納得してくれました。」
「一筆? ああ、このことか。警察に届けるかどうか、学校にも届けるかどうか、それは最終的に俺が決めることだ。」
「だって、お店の言うことに何でも従いますって一筆書いたんですよ。」
「それは本当かどうかを俺が判断するってことだ。だいたい、万引きなんかするような奴の言うことは信用出来ないからな。平気で嘘を吐くし。」
「そ、そんな事はありません。何でもします。ですから警察と学校にだけは・・・。」
「ふん。それはお前の態度次第だからな。じゃ、まず持ち物から調べさせて貰う。」
「あっ・・・。」
机に置いてあった鞄はあっと言う間に取り上げられてしまう。昨日、調べられたのでまた中身を確認されるとは思っていなかったので油断していた薫だった。
次々に鞄の中のものが取り出されて机の上に並べられていく。
「これが身分証だな。こいつは昨日、もうコピーが取ってあるみたいだな。」
「は、はいっ。昨日の人の書類の中にある筈です。もう鞄の中身はいいんじゃないですか?」
「何だ? 見られたら困るものでも入っているのか?」
「あ、いえっ。そんなことはありませんけど・・・。」
「このポーチみたいなものは何だ?」
「あ、それは・・・。それは困ります。」
「困る? 怪しいな。」
「あっ・・・。」
男は薫の制止も聞かずポーチを開けてしまう。
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