妄想小説
美教師を奈落に貶める罠
十五
(あったわ。確かこれだった筈・・・。)
化粧品などが並ぶ陳列棚の中に見覚えのあるパッケージを見つける。しかしさすがにコンドームだけを持ってレジに並ぶ訳にはゆかないと思った薫は、要りもしない男性用化粧品や髭剃りクリームなどをコンドームのパックと共に入れて、夫か恋人のものを買いにきた振りをすることにした。レジの列は数人が並んでいてやっと薫の番になろうかという時に何となく後ろから覗かれている気がして振り向くと、何時の間にか同じ高校の名前は知らないが見覚えのある男子学生がすぐ後ろに並んでいたのだった。
「あれっ。うちの高校の先生ですよね。」
「あ、ええっ・・・。」
(うっ、まずいわ・・・。)
すぐ後ろなので、商品を観られてしまう惧れがあったのだ。
「あっ。そうだ、あれ忘れていたわ。どうぞ、お先に。」
そう言うと何か買い忘れた振りをして、レジの順番を後ろの男子高校生に譲って商品のあった棚に戻る薫だった。誰も見ていないことを確認して、コンドームのパックだけそっと棚に戻すのだった。
結局、その男子高校生が店内から去らないのでコンドーム以外だけをレジで精算して店を出ざるを得なかった薫だった。
買わないで帰る訳にはゆかない薫は近くのデパートで小一時間を潰してから再度同じコンビニに入る。もう要らないものは買いたくなかったのでレジが空いた頃合いを見計らってさっと買物籠にコンドームだけを入れるとレジに急ぐ。
「えーっと、すぐにお使いですか?」
「えっ? 何ですって・・・。」
「あ、いやっ。これ一つだったら袋は要らないかなって。シールでいいですか?」
「あの・・・、ふ、袋にお願いします。」
「えーっ、チッ。」
若い店員が軽く舌打ちしたのが聞こえたが、薫は無視することにした。
「あれっ? あれれ・・・。」
若い店員はコンドームのパッケージを手に取ってバーコードを読み込ませようとするのだが、機械が反応しないらしい。
「済みません。ちょっとお待ちいただけますか? 店長ーっ。すいませーん。コンドームがバーコードで読めないんですがぁ。」
若い店員がバックヤードの店長を呼ぶのに、大きな声でコンドームと品名を叫んだので思わず薫は俯いてしまう。
「えーっ? コンドームがどうしたってぇ?」
奥から出てきた店長も大きな声でコンドームと叫ぶ。薫はますます恥ずかしくなって顔を真っ赤にさせる。
「あれえ? ほんとだ。これ、品番を入れ忘れたんじゃないのか? おい。お前、棚に行ってこれが幾らだったか見てこい。」
そうこうしてる間に薫の後ろには列が出来始めていた。
「あ、すいませんねえ。今、値段みてきますんで。その間、ちょっと横にずれててくれますか? はいっ、次の方。どうぞ。」
店長らしき男はコンドームの箱だけが入った買い物籠を横にずらすと次の客のレジを打ち始める。後ろで待たされていた男は、物珍しそうに薫の籠の中を覗き込んでくるので薫はずっと下を向いているしかなかった。
「若い女が一人で来てコンドームだけ買ってゆくなんて、時代は変わったなあ。」
「そうすか? 俺、あの手のものはネット注文っすよ。」
薫がコンビニを出てゆく際に、店長とバイトらしい若い男が話しているのが薫にも聞こえてしまっていたのだった。
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