妄想小説
美教師を奈落に貶める罠
十九
スカートに付けられた沁みの正体は何だか分からなかったが、何か良くないものであるには違いないと想像出来た。薫は電車に乗るのにずっと鞄で前を隠していなければならないのだった。
「あっ・・・。」
電車の中で突然思わず声を挙げてしまう。
(あの店に出頭するよう言われていたんだったわ。)
薫は恭平に逢うまでは、恭平との会話を出来るだけ早く済ませて店に向かうつもりだったのだ。しかしその後の展開があまりに強烈なものであった為にすっかり忘れてしまっていたことにやっと気づいたのだった。
(明日は休みを取って、誠意を見せる為に出来るだけ早く行かなくちゃ。)
そう薫は決心したのだった。
「昨日は本当に申し訳ありませんでした。突然な事で、身動き出来ない状況になってしまったのです。」
「身動き出来ない状況だと? まだ嘘を吐く気なんだな。」
「いえ、嘘ではないんです。ただ、何があったかは言うことが出来なくて・・・。」
「ふん、下手な嘘だな。ま、万引きをするような奴はどうせ何を訊いても嘘しか言わないんだろうからな。反省してる様子が見えないからもう取調べもやり直しだ。」
「えっ? やり直しって・・・。」
「また服を全部脱ぐんだよ。盗品でないかどうか調べてやるっ。」
「で、でも・・・。昨日も調べたじゃないですか。盗品はなかったのでは?」
「お前が勝手に出頭をすっぽかしたりするから信用出来ないと言っているんだ。つべこべ言わずにさっさと服を脱げ。ほらっ。このTシャツをまた貸してやるから下着も何も全部脱いでこれに着替えるんだ。いいな。」
薫はすっぽかしてしまった手前、理不尽でも言うとおりにせざると思い込む。
「あ、あの・・・。今、脱ぎますからむこうを向いていて頂けませんか?」
手渡されたTシャツを掴むと事務所の隅に行って男に背を向けて服を脱ぎ始める。男が自分の方を見ていないかどうかは、確認するのも憚られるのだった。
「全部、脱ぎました。これでよろしいでしょうか?」
男が渡してくれた黒いTシャツ一枚だけを羽織ると、男に脱いだ服一式を手渡す。
「よし。それじゃ、手錠を掛けさせて貰う。手を後ろに回すんだ。」
「あの、逃げませんから手錠は要らないと思います。」
「お前がどう思うかは関係ない。お前は犯罪者なんだぞ。手錠が必要かどうかはこっちが判断する。」
「そうですか・・・。分かりました。好きになさってください。」
抗っても無駄だと思った薫は素直に男に背を向けて両手を後ろに回す。その両手首にガチャリと音がして鉄の輪が掛けられたのだった。
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