妄想小説
美教師を奈落に貶める罠
五
恭平が出した条件は市内の有名スーパーの売り場からある品物を料金を支払わないで持ってくるというものだった。品物というのは男性が性行為の際に装着するコンドームだった。コンドーム一箱を持ち帰れば条件成立という。恭平からはそのスーパーの売り場のレイアウトから監視カメラの位置、カメラの死角、巡回店員の巡回頻度などを事細かに教えられた。
薫は恭平の言葉から意外と簡単に出来そうな感触を感じ取っていた。
(もしこれが上手く成功して、美鈴が秘密を無事に取り返せたら私が実はと言って謝りにいけば理解してくれるのではないだろうか。何せ女子高生の命が掛かっているのだから・・・。)
薫は何時の間にか自分にそう言い訳し始めていた。
恭平にははっきりと実行するとまでは言わないまま、一度スーパーに下見に行ってみることにした薫だった。スーパーの監視カメラや巡回店員の巡回頻度などは恭平が話した通りだった。
(これだったら誰にも気づかれずに品物を恭平の元へ持ち帰れそうだわ。後日、事情を話して代金を支払いに行けば店の人も納得してくれるだろう。場合によっては美鈴って生徒に証言して貰えば絶対信じてくれる筈だわ。)
そう判断した薫は、恭平の申し出に乗ることを決意したのだった。
薫はその日は薄手の派手なピンク色のスプリングコートを羽織って入店する。店の入り口には監視カメラが入店する客を全員把握できるように向きを調整しておいてあるのだ。その後天井に数台ある監視カメラの全てから死角になる店の北西のコーナーまで行き、そこでコートを脱いで折り畳んでバッグの奥にしまうと、アップにしていた髪を降ろす。問題の品物のある棚の前まで監視カメラに映らないように陳列棚のすぐ傍を通りながら近づいていく。制服の巡回警備員が薫の居る列を通り過ぎて隣の列に向かうのを確認する。恭平に教えられた情報に依れば次に同じコーナーに戻ってくるのは約15分後になる筈だ。監視カメラにずっと背を向けたまま商品の展示棚の前まで来る。
(ここで少し背を屈めて展示棚の陰に入るようにして商品に手を伸ばせばカメラに映らないで済む筈だわ。)
同じ列には中年のオバサンが一人品物を探している。その人物が背中を向けるまで薫はじっと待つ。
(あ、今だわ。)
オバサンが背を向けた瞬間にさっと身を屈めると商品に手を伸ばす。もう一度その列の前後を振りむいて見て誰も見ていないのを確認すると、指示されたコンドームの箱をさっとバッグの中に隠す。
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