妄想小説
美教師を奈落に貶める罠
八
「という訳で、この子がその男子生徒に脅されていたんです。で、秘密をばらされたらもう生きていけないって自殺まで仕掛けて・・・。それで私が代わりになって万引きをすることを引き受けたんです。ね、そうよね?」
事務所には昨日自分を取り調べた若い社員ではなくて、もっと柄の悪そうな別の男が椅子にふんぞり返っていた。その男の言い分によると、本来はその男が万引き犯などの取り調べをやる担当で、昨日の男は自分が非番で居なかったので仕方なく代わりを務めたのだという。
「で、どうなんだい。お嬢ちゃん? この先生の言ってることは確かなのか?」
美鈴は無言で俯いている。
「ね、美鈴ちゃん。本当のことを言って。顔を上げてこの人に本当のことを言うのよ。」
薫は慌てて美鈴に同意を促す。しかし美鈴の口から出た言葉は薫が思ってもみなかったことだった。
「いいえ。そんな事はありません。」
「えっ? 美鈴ちゃん。何、言ってるの? 本当のことをちゃんと話してっ。」
「あの、だから・・・。私は脅されてなんかいませんし、秘密なんて何もないです。この人の言ってることは自作自演の嘘です。」
「ほう・・・? つまり、それはどういう事かな?」
「・・・。多分、自分の罪の言い逃れの為に適当な話をでっち上げて釈明してるんだと思います。」
「美鈴ちゃん。何て事、言うの。私は貴女の為に身代わりになって万引きまでしたのよ。」
「先生? まあ、そんなに興奮しないでっ。お嬢ちゃん。分かったから、もういいよ。もう帰っていいから。」
「な、何言ってるんですか。この子は本当のことを喋ってないのよ。私が嘘をでっち上げているだなんて・・・。」
薫は顔を真っ赤に昂揚させて抗議する。しかし美鈴は俯いたままだった。
「先生。こんな若い子に罪を擦り付けるようなことは宜しくありませんな。これ以上、この子を傷つけるようなことはお止めなさい。お嬢ちゃん、もう帰っていいから。」
美鈴は突然顔を上げると、店の男に向かってぺこりを頭を下げると事務室を出ていってしまうのだった。
「ま、待ってっ。美鈴ちゃん。どうして本当のことを言わないの? 行かないでよっ。」
しかし立ち上がって美鈴の後を追おうとする薫の二の腕を男はがっしりと掴んで離さなかった。
「アンタにはもう一度、これを着けてて貰うからね。」
そう言う男の手には、昨日と同じ手錠が握られているのだった。
「い、嫌よ。そんな物で繋がないでっ。ちゃんと話を聞いてっ・・・。」
しかし有無を言わせぬ調子で男は薫の左手に手錠を掛けると、昨日と同じように壁の配管にその反対側を掛けてしまい、薫が逃亡出来ないようにしてしまうのだった。
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