妄想小説
美教師を奈落に貶める罠
四
「なあ、薫先生よ。俺をもう一度生徒指導室に呼び出したってからには、この間の俺を痴漢呼ばわりしたことを謝ろうって言うんだよな。」
「謝るですって? 彼女、確かに貴女に痴漢してくれるように頼んだって言ったけど、それは貴方に秘密を握られていて仕方なくでしょ。貴方が彼女を脅してそう言わせたんだわ。」
「だから俺を痴漢呼ばわりしたって構わないってつもりかい?」
「うっ、そういうことじゃないけど・・・。」
「だったらまずは謝るんだな。よく確かめもせずに他人を痴漢呼ばわりしたんだ。」
「・・・。わ、わかったわ。その事は謝ります。す、済みません・・・でした。」
「何だよ、その謝り方は。謝るんだったら土下座だろ、普通・・・。」
「え、土下座ですって? そんな・・・。わかったわ。まずはそのことは謝るからっ。」
薫は男子生徒を前にして土下座をさせられる屈辱に暫し逡巡したが、氷室恭平とはちゃんと話をしなければならないと考えてまずは自分の非はきちんと謝っておかねばと思ったのだった。
「よく調べもしないで痴漢呼ばわりしてしまいました。どうか赦してください。ね、これでいいでしょ? その上でだけど、貴方美鈴さんの秘密を何か握って脅しているわよね。」
「さあ、それはどうかな。何か証拠でもあるってのか?」
「しょ、証拠は・・・。それはないけど。でも美鈴さんはそのことで飛び降り自殺までしようとしたのよ。わたし、そんな事絶対許せないわ。」
「困っているのは美鈴の勝手で、それで自殺しようってのも美鈴の勝手だろ。」
「そ、そんな・・・。ね、お願いよ。先生、何でもするから美鈴さんの秘密っていうのを持っているんなら、それを彼女に返してあげてっ。」
「先生。今、何でもするからって言ったよな。本当か?」
「貴方が美鈴さんの秘密っていうのを返してくれると言うのならね。」
「よおし、わかった。美鈴の秘密っていうのはアレの事だろう。返してやってもいい。その代わり、アンタが美鈴の代わりになるんだ。」
「私が美鈴さんの代わりになるですって? ど、どういう事?」
「ふふふ。アンタには美鈴の代わりに万引きをして貰う。」
「何ですって? そんなの、出来る訳ないわ。」
「何だよ。何でもするって言ったばかりじゃねえか。平気で嘘吐くんだな。だったら、勝手に自殺でもなんでもさせて、それを見守るんだな。」
「そ、それは困るわ・・・。私には大事な生徒を守る義務があるのよ。ねえ、何か他の事では駄目?」
「駄目だね。」
「ねえ、私が痴漢されるのではどう? 痴漢されても我慢するわ。」
「ほんとは自分が痴漢されたいだけなんじゃないの?」
「え、何て事を言うの? 痴漢されたいなんて女性が居る訳ないじゃないの・・・。」
「さあ、それはどうかな。とにかく先生なんか痴漢したって全然割が合わないよ。交渉不成立だね。」
「ねえ、どうして万引きじゃないといけないの?」
「ふふふ。犯罪者の苦しみを味わって貰う為さ。これは罰みたいなものだからね。」
「罰ですって?」
「そう。先生が美鈴に代わって罰を受けるのさ。それだったら何でも返してやるよ。」
「そんな・・・。そんな事、出来ないわ。」
「じゃ、これ以上話すことはないから。俺はこれで帰るぜ。」
「ま、待って・・・。」
薫は飛び降り自殺しようとした美鈴の顔を思い浮かべる。
(何とかしなくちゃならないわ。それも一刻も早く・・・。)
「待って・・・。万引きって・・・。具体的に何をすればいいの?」
生徒指導室を立ち去ろうとしていた恭平は魚が針に掛かった感触を感じ取って立ち止まる。
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