妄想小説
美教師を奈落に貶める罠
三十
次の日、漸く、美鈴を掴まえて話を訊く為に生徒指導室で二人きりになれた薫だった。
「ねえ、教えて欲しいの。どうしてあんな嘘をあの店で吐いたの?」
「先生。甘いわね。まだ気がつかないの。あれは全部、芝居なのよ。」
「えっ? 芝居って・・・。どういう事なの?」
「私が恭平が書いたシナリオどおりに嘘の芝居をしてたってことよ。先生が罠に嵌まって恭平の性奴隷になって屈するようにね。」
「何ですって? シナリオ・・・? 罠って・・・。」
「電車の中で私が痴漢行為を受けていた時から全部よ。先生が正義感が強くて、自信満々に行動しているのを恭平がみて、先生を陥れようって考えたのよ。恭平はそういう男なの。」
「じゃ、わざと私に痴漢行為を見せて生徒指導室へ呼び出すようにさせたっていうの?」
「そうよ。先生はまんまと引っ掛かって私が万引きをさせられそうになって仕方なく痴漢されるのを許したって話を信じ込んで騙されたの。」
「じゃ、恭平クンに秘密を握られていて自殺しようとしたのも芝居?」
「秘密を握られているのは本当だけど、自殺しようとしたのは芝居よ。その位しないと先生が身代わりになって万引きをするなんて引き受けないだろうって恭平は考えたみたいよ。でも恭平のその作戦はまんまと功を奏して先生は万引きを身代わりでするって決心してしまったのよ。恭平はそういう人の心理を読むのが凄く得意なの。」
「でも恭平クンが言っていた方法は安全そうだったの。それで私は美鈴さんの窮地を救いたい一心で彼の提案を呑んだのよ。でもそしたら思わぬことが起きて・・・。」
「先生。だから先生は甘いって言うの。あのスーパーは恭平の親がオーナーをしてる店なの。だからあの店のことは何から何まで知っていて。何処に防犯カメラがあるとか、万引き防止の警備員はどの位の頻度で廻ってくるかとか教えられたんじゃない?」
「え? ええ、そうだけど・・・。」
「それが罠なのよ。先生はばっちり映るカメラの真ん前で万引きをさせられた筈だわ。店の人が先生が万引きするところが映ってる映像を見せなかった? 先生は天井のカメラだけが防犯カメラだと信じてまんまと防犯カメラが真正面にある場所で万引きをさせられたのよ。先生を捕まえたのだって、教えられた警備員とは別の人だったんじゃない?」
「どうしてそんな事まで知ってるの?」
「前に私がその罠に掛かって万引きするところを撮られてしまったからよ。だから私は彼の言うなりになって、先生を陥れる芝居を演じなければならなかったの。」
「え、じゃ・・・。美鈴さんが握られていた秘密ってそれなの?」
「それだけじゃないわ。彼はもっと周到で悪賢いから。先生も万引きのビデオ以外にもいろいろ知られたら困るような映像とか撮られたんじゃないの?」
美鈴にそう言われて薫はすぐに店の万引き取調べ担当だという男に幾つも恥ずかしいビデオを撮られたことを思い出す。恥ずかしいだけではなく、犯罪を警察や学校に内緒にして貰う為に自分から恥ずかしい行為を申し出た証言のビデオまで撮られてしまっているのだった。
(でもあれは店の男の仕業で、恭平とは関係ない筈・・・。)
そう思いかけたところで、あの店のオーナーが恭平の親なのだという美鈴の話を思い出す。
「ま、まさか・・・。」
「やっぱり思い当たる節があるのね。もう先生は逃れられないわよ。彼のいいなりになるしかないの。」
「ね、美鈴さん。一緒に闘いましょう。恭平とか店の男とかが私達を騙してさせたことを警察に全部話して、彼らの悪事を暴かなくちゃ。」
「私は嫌よ。恭平の悪知恵に勝てる筈ないもの。こんなことを暴露したら被害を受けるのは自分の方だけだから。先生もそうよ。生きていけないほど、辱めを受けることになるのよ。」
「わ、わたし・・・。どうしたらいいの?」
「恭平のいう命令に従って従順な奴隷になるしかないわね。」
「そ、そんな・・・。」
美鈴から告げられたまさかの事実に打ちのめされて、暗澹たる気持ちで生徒指導室を後にした薫だった。
次へ 先頭へ