手錠痣

妄想小説

美人アナ なな実が受ける罰


 八

 「え? ここは何処?」
 目を醒ましたなな実は起き上がろうとして、身体のあちこちが節々で痛いのを感じる。身体を起そうとすると眩暈がして頭がくらくらするのだった。
 起き上がるのを諦めて、目を薄っすら開いていくと、真っ黒な空に星が瞬いているのが見えた。暫くそのままでいると、しだいに眩暈と頭のくらくらが落ち着いてきた。それでゆっくりと身体を起す。
 辺りを見回すと、なな実は何処か判らない公園の中のベンチに寝ていたことに気づく。何故、自分がそんな所に寝ていたのかはさっぱりわからない。妙な悪夢を見ていたような気がする。
 (自分が縛られて犯されていた夢を見ていたみたい。)
 そう思いながら髪の毛を掻き上げようと手首を持ち上げてみて、はっとなる。手首に付いていた赤い痣のような後は、おぼろげな記憶が夢ではなく、現実のものだったことを物語っていたのだった。


 「お、なな実ちゃん。おはよっ。」
 気が重くなるのを必死で抑えて何とか出社したなな実を迎えたのは、いつものディレクターの藤森の声だった。
 「え、ああ・・・。」
 「何だい、どうしたの? 随分元気が無さそうなないの、なな実ちゃん。」
 「え、別に・・・。」
 藤森の挨拶を半分無視して報道部アナウンサー室の自分の席に疲れたようにどっかり腰を下ろしたなな実の元へ藤森が珈琲の紙コップを片手に近寄ってきた。
 藤森には何か言わなければならない気がするのだが、なな実にはそれが何だか思い出せない。
 「昨日はどうしたの? 急に帰っちゃったみたいだけど。」
 なな実はその言葉にはっとする。
 (そうだ。昨日は藤森と一緒だったんだ。えーっと、何で藤森と一緒だったんだっけ。)
 「昨日はごめんな。やっぱりM先生、あれから連絡が入って、急用が入って来れなくなったんだって。だから帰っちゃってもちょうど良かったんだ。おかげで、俺もあの後、ディナー二人分、たらふく食べさせて貰っちゃったし。」
 「そうなの・・・。」
 あまり気が無い振りを装いながら、なな実は必死で昨日の事を思い出そうとする。
 (そうだ。元々は藤森が持ってきた話だった。Mプロデューサが新しい報道番組のキャスターの件で逢って話がしたいっていうんで出掛けたんだった。普段は男の人と二人だけで会食なんかはしないようにしてるのに、チャンスかもしれないと思って藤森がセッティングした高級フレンチの店でMプロデューサを待っていたんだった。でも、Mに逢ったって記憶はない・・・。)
 藤森のMプロデューサからキャンセルの電話が入ったのだと聞いて得心したのだった。
 「でも、若しかしてあのM先生。二股掛けていた可能性はないとは言えないな。あの先生、よくやる手だからな。」
 「え? じゃ、私は事前にボツだったって事?」
 「まあ、チャンスはまた来るよ。焦らないことさ。」
 そう言うと、なな実の様子がいつもと変わらないことを確認して安心したとばかりに藤森は去っていくのだった。
 (そうだ。あの時、Mプロデューサがなかなか現れないんで藤森が電話で確認してくるって言って席を立って、その間に私は化粧室へ行ったんだったわ。でもその後の事はどうしても思い出せない。)
 高級フレンチのレストランで化粧室に立った後の記憶が何故かぷっつり途切れているのだった。

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