本番放心

妄想小説

美人アナ なな実が受ける罰


 十一

 「なな実ちゃん、今日はどうしたのさ? 放送中、心ここにあらずって感じだったよ。」
 「ああ藤森ちゃん、観てたの?」
 「そりゃ、なな実ちゃんのオンエアは何時だってチェックしてるさ。」
 「へえ、そうなの? あ、いや。特にどうってことはないんだけど、ちょっと考え事してて・・・。」
 「なな実ちゃんらしくないね。本番中に集中してないなんて。」
 「だよね。わたし、何か変みたい。もう、大丈夫。ちゃんとするから。」
 そう言って、なな実は自分の頬をパンパンと手で叩いてみせる。
 「うん、その方がなな実ちゃんらしい。ま、がんばってよ。」
 「あ、ありがと・・・。」
 立ち去って行く藤森Dを見送るなな実だったが、立ち去る藤森が背中の向こう側でにやりとほくそ笑んだのにはなな実は気づいていなかった。

 宣戦布告の挑戦状が現実のものとなったのはそのすぐ後だった。
 「なな実ちゃ~ん。また郵便が届いているよ。」
 「あ、ありがと。涼馬くん。」
 封筒を受け取ったなな実だったが、嫌な予感がして今度はすぐに封を切らず封筒を持って女子トイレに向かったのだった。
 個室の中に入ってしっかりロックを掛けてから徐に封筒を開封する。中には金釘流の文字が並んだ紙が一枚入っているきりだった。
 <イマスグオクジョウニアガッテヘイノフチデパンツヲヌイデコイ>
 最初、何と書いてあるのか意味不明だったが、何度も読み返すうちに<今直ぐ屋上に上がって塀の縁でパンツを脱いで来い>と書いてあるのだと判った。
 (パンツを脱げですって。しかも屋上の上で?)
 飛んでもない命令だった。なな実の勤めている放送局はかなり高いビルの方だが、周りにはもっと高いビルだって幾つもあるのだ。屋上でパンツを脱げばまわりのビルからは丸見えの筈だ。
 (冗談じゃないわ。)
 紙を封筒に戻すと、必要もないのに水を流しトイレの個室を出たなな実だった。
 そのなな実が女子トイレの入り口を出ようとするときに、誰かが男性用トイレから走り出て事務所へ小走りに向かうのが見えた。
 「お~い、誰だあ。こんな悪戯をした奴は?」
 そう大声で叫びながら一枚の紙を高く翳している。
 「何なの? 大きな声を出したりして・・・。」
 なな実が近づいて後ろから声を掛けた。
 「ああ、なな実か。こんな紙を男性用トイレの中に貼り出したりした奴が居るんだ。ったく、中学生じゃあるまいし、今時こんな悪戯、いい大人がするか?」
 そういって中堅どころのディレクター酒井がなな実に見せたのは女性のヌード写真らしかった。全裸の様子だが、首から上と臍下の股間部分がぎりぎり見えないように切り取られている。見たのは一瞬だったが、なな実には直ぐにそれが何なのかを悟った。
 「まったく子供みたいね。」
 心の中の狼狽を気取られないように注意しながら後ずさりするようにその場を離れる。明らかにそれはなな実に対する警告のようだった。
 <言うとおりにしないともっと酷いのを貼り出すぞ>
 そういう言葉をなな実だけに判るように告げているのに違いなかった。なな実は直ぐさま屋上を目指す。

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