憂い

妄想小説

美人アナ なな実が受ける罰


 十三

 自分のデスクに戻ると、また何やら紙包が机の上に置いてある。宛先は自分になっている。もう一度女子トイレの個室に篭もることにした。ロックをした個室内で逸る気持ちを抑えながら紙包を開いてみると、無味乾燥な茶色の紙袋と紙切れが一枚入っている。紙袋は無印で、ロゴマークは入っていないが、何処かのデパートの買物用みたいな大きさで手提げが付いている。折り畳まれた紙切れを開いて読んでみる。
 <ヌイダパンティヲカミブクロニイレテ、イッカイロビーノウケツケマエノベンチニオキワスレタフリヲシテオイテコイ。オイタラスグニジブンノセキニモドレ。オレハイツモオマエヲミハッテイル。>
 脱いだショーツはポシェットの中に丸めて入れて来てある。もうここまで来たら後には引けない。ポシェットから脱いだばかりのショーツを取り出すと念入りに丸め、念の為にハンカチで包んで紙袋の底に落とす。そして紙袋の手提げを持ってトイレを出たなな実はエレベータで一階を目指したのだった。

 一階ロビーは、いつも通り行き交う人でごった返している。幸い見知った顔の者は居なさそうだった。フロアの片側に幾つか置いてあるロビーベンチの受付嬢の真正面にあるものの端に腰掛け、如何にも待合せの人を待っている風を装う。受付嬢も特にこちらには気づいていない風で次々にやってくる来訪者の応対に追われていた。
 持ってきた紙袋をベンチの一番端に置いたまま、すくっと立上るとなな実はそのままエレベータを目指す。後ろ髪を引かれる思いだったが、やってきたエレベータの庫内にそのまま入る。もう一度ベンチの様子を見ようと振返った時には無情にもエレベータのドアが閉じられたところだった。

 「あの、今日は何か忘れ物みたいなものは届いていませんか?」
 小一時間してから再び一階ロビーに戻ったなな実は受付嬢に聞いてみる。
 「えーっと、ああ今日は何もありませんね。」
 「あ、そう。・・・。ねえ、何か不審な人物とか居なかった?」
 「え? 不審・・・? えーっと、例えばどんな風な?」
 「あ、いいわ。何でもないの。忘れてっ。」
 まさか狼の被り物をしたままでやってくる筈もない。受付嬢が何も見留めなかったとしても無理はないのだ。なな実が紙袋を置いたベンチからは綺麗さっぱりそれは無くなっているのを確認しただけだった。 

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