妄想小説
美人アナ まなみが受ける罰
四十
藤森が出て行くと咄嗟にまなみは立上り、襖の向こう側を検める。そして座敷に戻って局長の目の前にしゃがみこむと、唇を尖らせて(しっ)と音にならない声を出す。局長は狐につままれたような顔をしながらも、まなみの意図は汲み取ったようだった。
まなみは座敷を見渡して、黒電話の隣にメモ帳と鉛筆があるのを見つけ、走り寄って後ろ手でそれを掴む。不自由な背中の手で座卓に置いたメモ帳に後ろ手の手で何か書きこむ。
局長がそれを覗きこむと、そこには『罠です』とだけ書かれているのだった。怪訝な顔をしている局長に向かって、まなみはこっくりと頷いてみせる。そして更に不自由な後ろ手の手で続きを綴っていくのだった。
『わたしをおいかけるふりをして、となりのへやでわたしをとこのまにむかってつきとばしてください』
まなみはひらがなでそう綴るのがやっとだった。局長が半信半疑ながらも内容を理解したように見えたので、まなみはもう一度大きく頷いてみせる。それから自分から隣の部屋へ先に入る。
「い、嫌っ。来ないでっ。」
突然、まなみが豹変したように引き攣った顔になって赦しを請い始める。局長は自分がすべき事が何なのか、考えながらまなみの後を追って布団の敷いてある部屋に入る。
「嫌よ。私に触れないでっ。」
そう言いながら、まなみは逃げ場のない部屋で何とか逃げ場を捜しているかのように横に横に動いていく。床の間を背にしたところで、まなみは足を止め局長に向かって再度大きく頷いて見せる。
「逃がしはせんぞ。」
局長はまなみに掴みかかろうとする。それから逃れるようにまなみは背中から背後の床の間に向けて倒れ込む。
ガシャーン。
大きな音がして床の間に飾ってあった活け花が花瓶ごと吹っ飛んだ。まなみは必死で後ろ手にあるものを掴みとって身体を廻してそれを引き千切る。まなみの手に残されていたのは細く黒い線が繋がった小さな物体だった。
「もう大丈夫です。縄を解いてくれませんか。そしたら今説明いたします。」
まなみがそう言うのを信じて、局長はまなみを後ろ手に縛っている縄を解き始める。
「あの部屋の床の間の花瓶の後ろには隠しカメラが仕掛けてあったのです。今、私が線を引き千切ったのでもう安心です。藤森は局長に私を襲わせて、その模様をビデオで隠し撮りするつもりだったのです。勿論、後で貴方をゆする為です。私は長く彼と仕事をしているので、彼の考えそうな事はだいたいわかります。私の身体を貴方に与えるだけでお終いにする筈はないと思ったのです。それで次の間をみたら床の間の花瓶の後ろに黒い線が伸びているのに気づいたのです。」
「そ、そうだったのか。しかし一瞬でよくそこまで気づいたものだな。」
「局長の相手を今晩するように言い含められた時から、なにか策略を考えているのだなと思っていました。だから、すぐに判ったのです。」
縄をすっかり解かれたまなみは手首の痕を擦りながら乱れた裾を直している。
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