妄想小説
モデルになった美人ホステス
八
すぐにスケッチブックの上を走る劉邦のデッサン用の木炭が紙を擦る音が聞こえてきて、画家が何かを感じ取ってそれを紙面に写し取ろうとしているのが感じられた。
劉邦のスケッチは小一時間に亘っていた筈だったが、美沙子にはほんの一瞬だったように感じられた。(今日はここまでにしておこう)という言葉で劉邦が背中の結び目を解き始めるまで美沙子は時を忘れていたようだった。
「辛くはなかったかね?」
劉邦がそっと掛けてくる言葉に、美沙子は画家の優しさを感じていた。
「いえ、ちっとも。それより、私。先生がイメージしているような表情が浮かべられていたでしょうか?」
「ああ、完璧だった。いい作品に仕上がりそうだ。久しぶりに私も興奮したよ。筆が勝手に滑っていく感触だった。君はモデルとして天才だよ。」
アトリエを辞して、着替える為に次の間の控室に戻る前に美沙子は手首をそっと検める。そこにはうっすらと荒縄の痕が残っていた。
(着替えを手伝って貰う信代さんには気づかれないようにしなくちゃ。)
そんなことを思いながら控室に戻っていく美沙子だった。
翌日からも美沙子のモデルの仕事は順調に進んだ。最初にデッサンを描いた数枚のスケッチもいよいよ油絵具での色付けに入っていったが、劉邦は美沙子をモデルにした制作にどんどんのめり込んで行き、アトリエに居る時間もどんどん長くなっていく。緊縛姿でのスケッチも同時並行で行われ、次第にこちらの方の時間の方が多くなっていくのだった。
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