倫子

妄想小説


モデルになった美人ホステス



 二十一

 朱美ママの少し後に、ヤクザ風の男を従えた年増の女性が現れる。葬儀の席には似つかわしくないような鋭い目付きで喪主である美沙子を睨みつけながら近づいてくるのだった。
 「アンタが劉邦の財産目当てで近づいてきたっていうホステス上りの純子っていう女狐ね。」
 「あ、貴女は・・・?」
 その時、美沙子の後ろの方に控えていた信代がさっと近づいて来て美沙子に耳打ちするのだった。
 「その人は、劉邦先生の前妻だった倫子という人です。美沙子さん。お気をつけて。」
 信代が美沙子に耳打ちしたのを見て、倫子という女性は今度は信代を睨みつける。信代は目を伏せてすごすごと元の席に戻っていくのだった。
 「わざわざ会葬にまで足をお運びいただいて恐縮です。折角ですから故人にお線香をあげて差し上げてくださいませ。」
 美沙子は恭しく深いお辞儀をすると倫子が言った言葉を聞かなかったかのように反応する。
 「アンタ、劉邦のモデルを死に際までやってたそうね。さぞかし露わな格好を見せつけてあの人を誑かしたんでしょうね。だってキャバ嬢あがりですものね。」
 倫子は周りにも聞こえるような声で喪主の倫子を嘲るように言うのだった。
 「私は亡き劉邦画伯に遺言で指名されてこの葬儀の場を取り仕切っています。故人を送る厳粛な場を乱されるようでしたら、喪主としてすべきことをさせて頂きます。」
 美沙子はきっぱりと言い放って、後ろの葬儀社の男たちに視線を送り自分が合図したら倫子たちをつまみ出させるという意思を表示する。

濃緑着物

 「ふん。まあ、今日のところはこれで失礼させて頂くわ。でも、これで終わりだとは思わないで頂戴。近々また寄らせて貰うから。」
 そうきっぱり言い切ると、焼香もしないまま付いてきたヤクザ風の男を従えて帰ってゆくのだった。
 「大丈夫でしたか、美沙子さま?」
 葬儀社の男の一人が駆け寄ってきて美沙子に小声で囁く。
 「変な騒ぎをもし起こそうとしたら、その時は上手く対処してね。故人とは法的には完全に関係は途切れているから、赤の他人と思っていいわ。何もしなければそのまま黙って見送っておいていいから。」
 「そうですか。承知しました。」

misako

  次へ   先頭へ




ページのトップへ戻る