妄想小説
モデルになった美人ホステス
五
(えっ、ここが・・・。)
朱美ママの了承を受けて劉邦の絵のモデルになることを引き受けた美沙子だったが、ママから受け取った地図を頼りに劉邦の屋敷を訪ねてみてまず門構えで圧倒された美沙子だった。都心にあるとは思えないような広大な敷地に巨大な冠木門が美沙子を出迎えていたのだった。
門の脇にあるインターホンのボタンを押すと、高齢そうな女性の声の応答があり美沙子が名乗ると(お待ちしておりました)という声と共に分厚い木製の扉が音もなく開いたのだった。
門から一歩、中に踏み出した美沙子は屋敷までの距離とその大きさに更に圧倒されるのだった。
(まさか、こんな大きなお屋敷だったなんて・・・。)
おそるおそる美沙子が屋敷の玄関口らしき場所に近づいていくと、そこには既にさきほどインターホンに出たらしい老婆が出迎えているのだった。
「旦那様がお待ちでございます。さ、こちらへどうぞ。」
老婆の案内に従って屋敷の中に入ると、控えの間らしき場所に案内され予め用意してあったらしい着物に着替えるよう指示される。着替えが終わると老婆は(アトリエにご案内致します)と簡潔に言って奥の部屋に案内されたのだった。
「少し休憩しようか、純子ちゃん。」
「あ、はいっ。」
劉邦は描き始めてからずっと集中して絵に没頭していたので、そう声を掛けられてほっとした美沙子だった。
「疲れたんじゃないのかね?」
「ええ。あ、いやっ。疲れたというか、初めてのことだったので緊張していて・・・。私でモデルがちゃんと務まったのでしょうか?」
「ああ、充分務まっているよ。モデルというのはね、ポーズの取り方の上手い、下手じゃないんだ。存在感やオーラがどのくらい出せるかなのだよ。君がこの部屋の中に居るだけで、僕は創作意欲を物凄く掻き立てられるのだよ。もしよかったら次は洋服に着替えて別のポーズで描かせてくれないかね。」
「もちろんです。あのでも・・・。着替えるものは特に用意はしてきてないんですが。」
「大丈夫だよ。君を案内してきてくれた婆さんが、ああ信代っていうんだが、彼女が着替えるものを用意してくれている筈だから。
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