妄想小説
モデルになった美人ホステス
六
結局、その日は信代というお手伝いさんに着替えを手伝って貰って三種類の服で三つの異なるポーズで下絵を描かれることになった美沙子だった。
「あの、信代さん。私、モデルとしてちゃんと務まったと思われますでしょうか?」
「旦那様はいたくお気に入りになられた様子です。一人のモデルさんで一気に三作品を並行で作製に入られるなど近年無かったことです。いや、ここ数年はずっと筆が遠のいておられましたから、相当創作意欲を掻き立てられているご様子です。えーっと、純子さま? それとも美沙子さまとお呼びしたほうが宜しいかしら?」
「ああ、純子はカルネでの源氏名なのでこちらでは美沙子で結構です。」
「承知致しました。あの・・・、こちらへはどの位の頻度で参上したらよいのでしょうか?」
「そうですね。先生ともご相談の上ということになりましょうが、通常は描き始めてから最初の一週間は毎日。その後は絵の進み具合でということになりましょう。」
「え、毎日ですって? 大変だわ。お店のほうに断りを入れなくっては・・・。」
「それはもう先生の方からなすってらっしゃるようですよ。」
「そうなんですか。」
「それから、取り敢えずはこちらが今日の分のモデル料になります。先生のほうからお預かりしておりましたので。」
「そ、そうですか。頂戴いたします。」
美沙子はモデル料が入っているという封筒を中身も検めずに受け取ると菱山邸を辞したのだった。
「あ、朱美ママさんですか。純子です。・・・。ええ、今日が初日で。・・・。ええ、何とかなったと思います。あ、それで向こうで初めて聞いたんですが、最初の一週間はほぼ毎日通うことになるそうで、そうなるとお店の方に出るのはその後ということになるかと思います。ただ、お仕事の方がいつ終わるか分からないので・・・。」
「あら、お店のほうとモデルの仕事は掛け持ちなんかしなくていいのよ。モデルの方の仕事に支障が出たりしたら、ママとしては先生に面目が立ちませんからね。・・・。ああ、大丈夫よ。お店のほうだったら。お店の方にも先生からモデル派遣料として十分過ぎる額を頂戴していますから。・・・。いえ、いえ。貴方が心配することではありませんよ。先生がもう充分と満足なさるまで絵が描き上がったところで、こちらに戻ってくれればいいのだから。・・・。いえ、いえ。店としても先生の絵が売れてウチの店の娘がモデルだと噂にでもなれば、凄い宣伝効果になるでしょうから。お店としても大歓迎なのよ。それに劉邦先生はウチの店の大得意なんだから、店としても大事にしなくちゃならないお客様なの。・・・。そう、じゃしっかりお務めを果たすのよ。」
店の仕事に穴をあけることになると心配していた美沙子はママからの意外な話で急に肩の荷が軽くなった思いだった。
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