妄想小説
モデルになった美人ホステス
三十七
(さっき、「私にも」と確かに言っていた・・・。それはつまり劉邦にも見せたように縛られた姿を自分も見てみたいという意味だったのだわ。)
「いや、心配しなくていい。儂は随分前から糖尿病を患っていて、あっちの方はもうずっと以前から役立たないのだよ。縛ったからといって襲い掛かるようなことはないから。」
「でも縛ると言ったって、縄のようなものは・・・。」
「ああ、それならさっき鮫津君がこれを渡してくれたんだよ。もし純子に訊いてみていいって言われたらこれをお使いくださいってね。」
岩倉は先ほど鮫津から渡されたらしい紙袋の中から取り出したのは劉邦が使っていたような麻の荒縄だった。
(最初からそのつもりで鮫津が仕組んでいたんだわ・・・。)
「そうでしたか。特別室で岩倉さまがご覧になったのは、この着物を着た私を描いた作品だったのですね。わかりました。あの絵がお気に入りになられたのでしたら、私ももう一度あの時のモデルの格好をお見せしますわ。」
美沙子も覚悟を決めたのだった。酒を用意したテーブルからすくっと立ち上がると岩倉の先に立ってベッドのある奥の方へ進み、岩倉に背を向けて両手を背中で交差するのだった。
岩倉はすぐに縄だけ持って美沙子の後を追ってきた。
すぐに手首に縄が巻かれるのを美沙子は感じとっていた。縛り慣れた劉邦に比べると稚拙な縛り方だったが、確実に美沙子の両手は自由を奪われていた。それから余った縄は美沙子の着物の上から胸の上と下にも回されていく。岩倉は今しがた絵で見てきた女の緊縛された様を一生懸命再現しようとしているかのようだった。
一応、岩倉が縛り終えたようなのを見計らって美沙子はベッドの上にあがり、劉邦に求められたのと同じポーズを取って見せる。
「おお、素晴らしい。こんな光景が生きているうちに目に出来るとは・・・。き、君っ・・・。いやらしいことはしなら、一度だけベッドの上で添い寝させてくれないだろうか?」
「わかりました。どうぞ。」
「そ、そうか・・・。それならば」
岩倉もベッドの上にあがってきて、美沙子の身体をやさしく後ろに倒す。岩倉がそのすぐ傍に寄り添ってくるのを見て、美沙子も可哀そうになって優しく言葉を口にする。
「いいのですよ、岩倉さま。私の肩をお抱きになっても。」
ごくんと岩倉が喉を鳴らすのが聞こえたような気がした。岩倉の手がゆっくりと胸の上を這いながら肩の向こう側へ回される。そしてその手は美沙子の了承を受けることもなく背中から下へ下へと移動していき、美沙子の尻たぶをなぞるように滑っていって、最後は下腹の上に手のひらを押し付けるようにして止まった。
「あっ、ああっ・・・。」
今度は美沙子の方が溜まらず喘ぎ声を挙げてしまう。
しかし一瞬で我に返った美沙子は老人の夢心地を覚ますかのような一言を浴びせる。
「で、どう致しますか? あの絵は・・・。」
「はっ? ああ、そうだった。勿論、買い取らせて貰うよ。こんな思いをさせて呉れたんだ。一生今日のことを思い出す為にもあの絵を買い取らせて貰うよ。一億円なんてこの思いからしたら安いもんだ。」
(い、一億・・・円?)
今度は美沙子の方が一気に夢心地から覚まされてしまった。縛られたまま、何とか身を起こすと、テーブルの上にあった呼び鈴を押す。すぐに鮫津がやってきて岩倉を外へ案内する。その後、信代がやってきて、美沙子の戒めを解くのだった。
「鮫津さん。私にも特別室にあるという一億円の絵を見せてくださらない? あの絵が売れてしまえばもう観ることも出来ないでしょうから。」
岩倉を送り出して戻ってきたところで美沙子は鮫津に注文する。鮫津はしょうがないとばかりに地下室の廊下を抜けて特別室と札の付いた部屋へ美沙子を案内する。その部屋には一枚だけ額が飾れるようになっていて、美沙子の想像どおりの絵が掲げられていたのだった。
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