妄想小説
モデルになった美人ホステス
三十五
久々にカルネにホステスとして出た美沙子は、早速馴染みの常連客の老人から指名を受ける。
「お久しぶりです、社長さん。」
「やあ、純子ちゃん。ほんと、久しぶり。もう店には出てくれないのかと思ってたよ。そうそう、あの絵、見たよ。ホールの一番目立つところに飾ってあったやつ。あれ、劉邦先生の遺作の一つなんだってね。君らしさが凄く出てるいい絵だね。」
「ありがとうございます。朱美ママがどうしてもカルネにも飾りたいというのでお貸ししてるんですよ。」
「そうそう。そう言えば、劉邦先生の遺作ばかりを集めた画廊を作ったんだって? 僕も今度行ってみたいなあ。」
「それでしたらこの名刺の鮫津という者に連絡してみてください。画廊の管理はこの人がしているものですから。」
美沙子は鮫津から預かっている画商としての鮫津の名刺を手渡すのだった。
その老人は輸入高級家具を扱う老舗で長く社長をしていたが、もう引退して悠々自適の生活を送っているそうで、引退までに蓄えた財産でかなり裕福な暮らしをしているらしかった。いかにも鮫津が目を付けそうないい顧客なのかもしれないと美沙子も心の中で思ったのだった。
鮫津からその岩倉という元社長を招待したので接待の付き合いをして欲しいと依頼があったのは、美沙子が鮫津の名刺を渡してから割とすぐの事だった。
美沙子がギャラリーに赴くと出迎えたのは信代だった。
「鮫津さんは?」
「今、お客様を特別室にご案内なさってらっしゃるところです。お召し物をお着換えになって貴賓室の前で待っていてほしいとのことです。」
「着替えって・・・?」
「私がご用意しておきました。ドレッシングルームにございます。着替えを手伝うように仰せつかっております。」
「そうなの・・・。わかりました。案内してください。」
美沙子は信代の言葉の中にあった「特別室」とか「貴賓室」という言葉に違和感があった。前回鮫津に連れられてこのギャラリーを案内された時にはひと言もそんな部屋があるとは聞いていなかったからだ。
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