妄想小説
モデルになった美人ホステス
三十六
貴賓室は画廊の地下に設けられた一室らしかった。信代が用意しておいてくれた着物には見覚えがあった。絵の制作の際に使われたものの一つには間違いないようだった。まだ入ったことのない貴賓室の前の廊下で待っていると、やがて岩倉という元社長を引き攣れた鮫津が廊下の角からやってきた。
「岩倉さま。ようこそこのギャラリーへお越しくださいました。お疲れになったでしょう。こちらの貴賓室でお休みください。」
着物姿の美沙子、岩倉にとっては純子なのだが、その格好を一目見て岩倉はいたく驚いたようだった。
案内した当人の美沙子にも、貴賓室の扉を開けて中に入ってその豪華さぶりには驚かされる。
「ほう。素敵な部屋じゃないか。」
「どうぞ、こちらのソファへ。今、飲み物をお作りしますわ。」
既に酒が用意してあるテーブルの前のソファに岩倉を導きながら、ちらっと奥の方を見てベッドルームまでが見え隠れしているのを美沙子は見逃さなかった。
(貴賓室とは言っても、これじゃまるで高級ラブホテルじゃないの・・・。)
しかし顧客の手前、そんな気持ちは表情には現わさない。
「で、絵の方はいかがでした?」
さり気なく訊いたつもりの美沙子だったが、岩倉からは意外な返事が返ってきた。
「お願いがあるのじゃが・・・。私にも貴方を一度縛らせて貰えはしないだろうか?」
「え? 今、何と・・・?」
思わず聞き返した美沙子だったが、自分が今着ている着物がどんな絵を劉邦が描いた時の衣装だったかをすぐに思い出したのだった。
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