妄想小説
モデルになった美人ホステス
三
「ご指名ありがとうございます。純子と申します。」
「おお、純子ちゃんだね。さ、こっちへ。君、この仕事は始めたばかりなんだね。」
「え? ええっ・・・。どうして?」
「表情がまだ固いからね。でも眼ぢからのあるいい目をしてるよ。お愛想笑いしかしない娘よりずっといい。さ、まずは乾杯といこうじゃないか。」
「いまお酒、お作りしますわ。あの・・・。黒服の人が劉邦先生って言ってましたけど・・・。」
「ああ、儂は画家をしておるんでね。この業界じゃ、ある程度齢を取るとみんな先生って呼ばれるんだ。私としては、いささかこをばゆいんだがね。」
「では私も慣習に倣って劉邦先生と呼ばさせて頂いても宜しいでしょうか。」
「ああ、それで構わんよ。」
「それじゃ、お近づきの印しに。劉邦先生、乾杯。」
「乾杯っ、純子ちゃん。」
その日の菱山劉邦は殊のほか機嫌が良かったようだった。帰りがけに朱美ママを呼んで言付けるのだった。
「あの娘は和服のほうが似合う筈だ。儂のツケであの娘に適当なものを誂えてやってくれ。」
「承知致しました、劉邦先生。お任せください。」
次へ 先頭へ