妄想小説
モデルになった美人ホステス
二十二
通夜の読経がそろそろ終わりを迎えようとする頃、美沙子はすくっと会葬者の前に立って喪主としての挨拶をする。
「今夜は亡き菱山劉邦画伯の通夜に会葬頂きまして誠にありがとうございました。私は縁あって今宵の喪主を務めさせて頂きました。皆さまに見送られて故人も安らかに最期を迎えられたと信じております。本日はまことにありがとうございました。」
深々と頭を下げる美沙子の姿を見て、会葬者は三々五々、散り散りにそれぞれの帰途についたのだった。
会葬者が居なくなり菩提寺の住職も遺体を安置する本堂を出ていった後、葬儀社の担当から通夜の夜伽と呼ばれる故人に夜通し付き合う必要は昨今は無いのだと葬儀社の担当から聞かされた美沙子だったが、せめて自分だけはもう暫くだけ遺体が安置された棺の前で付き添っていてあげようと誰もが居なくなった本堂に独りで佇んでいた。
しいんと静まり返った菩提寺の本堂に突然人影が立ったのは、そろそろ美沙子が家に戻ろうと立上り掛けた時だった。
「あ、貴方は・・・。」
それは奇しくも劉邦の最期の瞬間を一緒に看取ることとなったホステス斡旋業の鮫津吾郎なのだった。
「一人で通夜の夜伽かい?」
「あ、いえ。私はもうそろそろおいとまをしようと・・・。」
「まだいいじゃないか。俺も折角来てやったんだから、もう暫く付き合いなよ。」
「で、でも・・・。」
「アンタにはちょっと見せたいものがあってね。」
鮫津が胸元のポケットから取り出したのはスマホだった。その画面をポンと叩くと何やら動画が再生され始める。
「こ、これは・・・。」
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