妄想小説
モデルになった美人ホステス
二
「朱美ママ。どうかな、この娘。ここで雇ってみてくれる?」
「あら、吾郎ちゃん。さすがだわね。いい娘、スカウトしてくるわねぇ。見た目、ちょっと田舎っぽいけど、お化粧して磨き上げればすぐに店のナンバーワンになれる逸材よ。」
「あの・・・。私、どういうお仕事かまだよくわかっていないんですけど。」
「あら、大丈夫よ。私が全部、ちゃんと指導してあげるから。」
「よ、よろしくお願いいたします、朱美さん。」
美沙子がコンビニの支払いを肩代わりして貰った男に連れてこられたのは、都心にある高級クラブハウス・カルネだった。鮫島吾郎というその男はキャバクラへキャバ嬢候補を紹介するのを生業としている所謂キャバ嬢スカウトだったのだ。
瀧川美沙子は2箇月前に母子家庭で母親と二人っきりの暮らしを続けていた中で母親との死別を迎え、文字通り天涯孤独の身になってしまった。母と二人きりで過ごしてきた田舎の町では勤め先もままならないので美沙子は単身で都会に出ることを決意したのだった。しかし東京に出てきたものの仕事はスーパーのレジ打ちぐらいしか見つからず、すぐにアパートの家賃の支払いにも行き詰るようになっていた矢先だった。
「いらっしゃいませ。ようこそカルネへ。」
「お、新人かい? 何て言うんだい?」
「あの・・・。じ、純子と申します。どうかご贔屓によろしくお願い致します。」
美沙子は言い慣れない純子という朱美ママに付けられた源氏名で自己紹介する。しかし純子という名はカルネではどんどん常連達の間で馴染まれていくのだった。
「なあ、朱美ママ。あそこの壁際で接待をしている若い子は何て名前だい?」
「あら劉邦先生。さすがお目が高いわね。純子っていう新しい娘で、最近一番人気よ。」
この店の常連客である洋画家の菱山劉邦は、画壇でも著名な長老の一人なのだった。
「お呼びしましょうか?」
「ああ、是非に。」
「承知致しました。ちょっと。純子ちゃんをこちらのテーブルにご指名で。それじゃ、先生。ごゆっくりと。」
ママの朱美は近くを通りがかった黒服に純子を劉邦のテーブルに寄越すよう声を掛けると自分は邪魔になるだろうからと劉邦のテーブルを後にするのだった。
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