妄想小説
モデルになった美人ホステス
四
美術家だけに菱山劉邦の見立てに狂いはなかった。菱山が買い与えた和装の純子は誰もがはっと息を呑むような楚々とした美しさと品を兼ね備えていた。
「いやはや。私が見込んだ通りだった。やはり、君は和装が一番だね。」
「劉邦先生、ありがとうございます。私には勿体ないような高価なお召し物です。宜しいんですか、こんな高価なもの戴いたりして・・・。」
「いいんだよ、気にしなくて。私みたいな老い先もう少ない老いぼれには残しておいても仕方ない蓄えが少なからずあるのでな。君みたいな美しい人には、その美しさを惜しげなく周りに披露する義務があるのだよ。」
「ええっ? そうなのでしょうか・・・。でも、ありがたいことです。さ、先生。もう一杯、いかがですか。」
美沙子自身、菱山劉邦から与えられた和服を纏って店に出るようになってから周りの視線が全く変わっていったことに驚いてもいたのだった。
「なあ、純子ちゃん。折角、こんな風に知り合ったという縁もあるんだし、一度私の絵のモデルになって貰えはしないだろうか? 勿論、朱美ママには私からお願いはするつもりだが。」
「え、私なんかが絵のモデルになんかなれるんでしょうか?」
「勿論だとも。君の姿が私の創作欲を掻き立てるのだよ。是非ともお願いしたいのだが。」
「そうですか。では、朱美ママと相談した上でご返事いたします。」
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