現場検証

妄想小説


モデルになった美人ホステス



 十九

 「どう思います、このホトケ?」
 若い方の刑事が同行した先輩の刑事に見立てを訊く。
 「こりゃどうみても自分の齢を考えないでバイアグラを服用してのオナニーでの心停止ってとこだな。あそこに落ちているエロ雑誌を見ながら抜いていたんだろう。それで射精に至る前に薬の負担が大き過ぎて心肺停止に至ったんだろう。しかし、いい齢してオナニー最中に心停止で死ぬなんてな。よっぽど性の欲情が強かったんだろうな。」
 「それじゃ、司法解剖は必要ないですかね。」
 「ああ、こんなんでいちいち司法解剖を要請してたら警察の税金の無駄遣いだっていう誹りを受けかねないからな。」
 「そうですね。見るからに腹上死って感じてはないですもんね。一応、通いのお手伝いさんが言ってた最近モデルをしてたっていう女性にも聞き込みだけはしておきますかね。」
 翌朝、劉邦の遺体を発見した通いの家政婦である信代の通報を受けて現場を検死した二人刑事による現場検証はそこまでで終わったのだった。

刑事聞き込み

 「えーっと、それで瀧川さんは菱山劉邦氏のアトリエを夕方5時過ぎに出られた訳なんですね。」
 「ええ、そうです。確か、通いのお手伝いさんの信代さんという方が屋敷を出られてすぐの頃だったと思います。」
 「あの、失礼かもしれないんですが瀧川さんは菱山画伯とは・・・、そのお・・・肉体的な関係とかは・・・?」
 「えーっ? 何を仰っているのか・・・。劉邦画伯はもう御年90を迎えようかという方ですよ。ある訳ないじゃないですか。まあ、先生はあのお齢としては精力的に絵の方には打込んでおられましたけど・・・。」
 「そ、そうですよね。は、失礼しました。」
 「で、劉邦画伯の屋敷を出られた後は・・・?」
 もう一人の年配の方の刑事が美沙子に訊ねる。
 「あ、あの・・・。私、鮫津という方とずっと一緒でした。あの私が勤めている・・・、あ、いや。劉邦先生のモデルをする前まで勤めていたクラブ・カルネでの知り合いの方です。」
 「ああ、やはりそうでしたか。その方からもそのように伺っております。や、長い間聞き取り調査にご協力、ありがとうございました。」
 二人の刑事は不信感も抱かず、美沙子のアパートを辞したのだった。
 「あの爺さん画伯。もしかしたらあの美人モデルと一発やりたくて、バイアグラを手に入れたのかもな。多分、あの夜はその予行演習をしてみたんじゃないかな。無理するよな、あの齢で。」
 こうして美沙子への事情聴取も美沙子が鮫津に教えられた通りの証言で終わったのだった。

misako

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