妄想小説
モデルになった美人ホステス
三十四
「もしかして、私を描いたものばかりを展示しているの?」
「いや、劉邦画伯の未公開、未頒布の作品は君以外を描いたものも展示はしてある。しかし売れ筋はやはり君を描いたものになるだろうね。」
(そうなると、縛られている姿を先生が描いたものも含まれるということかしら・・・。)
美沙子自身は出来上がった作品そのものは観ていないので若干の不安に駆られる。
一通りギャラリーを廻ってみて、縛られていたり着物の裾を乱しているようなポーズのものは飾られていないことを知ってほっと胸を撫でおろす美沙子だった。
「劉邦先生の遺品だった収蔵品はこれで全部なの?」
「いや、さすがにこのギャラリーでは全部は展示しきれないから、時期を見て少しずつ入れ替えていくつもりさ。勿論、絵が売れれば補充もしなければならないからね。」
(保管庫にある他の作品も見せてくださる?)そう問い質す言葉が喉元まで出掛かったが、それを美沙子は呑み込んだ。見てはならないものを眼にするような気がしたからだ。
「絵の売買のことや、画廊の整備のことは全て貴方にお願いするということになっているけれど、私は何をすればいいの?」
「君は時々ここに来て、やってくる得意客の案内をしてくれればいい。得意客は限られているから毎日という訳ではない。来てほしい日はこちらから事前に連絡するから。こちらに来る必要がない日はカルネにでも出ていたらいい。」
「そうね。カルネにも行かなくちゃならないものね。」
鮫津はカルネ以外にも多くの高級クラブに出入りしているようなので、そこで高額な絵を購入してくれそうな顧客のアテがあるのだろうと美沙子は想像する。
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