妄想小説
走る女 第二部
七十七
本物のゴルフで鍛えた花音のスィングは見事にシャトルを捉え、老人たちでは真似できないような大きな一打が決まる。老人たちからは一斉に拍手と歓声が上がるが、半数ぐらいは夫々に自分のスマホを構えて花音のショットの瞬間を捉えている。それが実はスィングの際に翻ることを期待している花音の短いスコートに向けられていたことを花音は気づいていなかった。
「えーっと、じゃ花音さんはAグループに入って頂きます。一緒にラウンドを廻るのはこの三方になります。」
「よろしくお願いします。初心者なので、足を引っ張らないように頑張ります。」
挨拶された三人の老人は、皆相好を崩してニヤリとする。
「や、こっちこそ、さっきの見事なスィングに負けないように頑張らせて頂きますぞ。」
「ああ、そうだな。せっかく美人さんと一緒の組になったんだから冥途の土産に頑張らねば。」
口々に言い合う老人たちに愛想笑いを浮かべる花音だった。
「じゃ、まず花音さんから一回目、お願いします。」
「はいっ。じゃ、最初に打たせて頂きます。」
そう言って、手渡された試合用のシャトルを人工芝のマットにセットする。その時、一斉に背後でスマホのシャッター音のようなものが聞こえた。
(えっ?)
シャトルを置くのに不用意に膝を曲げずに腰を屈めたせいで、スコートの奥が覗いてしまっていたのだった。
(いけないっ。見られたかも・・・。)
慌ててお尻の方を押さえた花音だったが、もはや後の祭りだった。背後に居た老人たちはニヤニヤしたり、急にそっぽを向いて知らん顔をしたりしているが、花音のスコートの奥を覗いたのは間違いなかった。
その後は毎回慎重に膝を折ってしゃがむのを忘れないプレイを続けたのだが、最初に打ったようなフルスィングは最早出来ない花音だった。
その日にターゲット・バードゴルフの大会があることは事前の打ち合わせを蛭田が大会主催者たちとしているのを立ち聞きしていたので莉緒も知っていた。その中で今回は市長の代りに秘書の早乙女花音が代行でやって来るという話も含まれていた。しかし、莉緒は蛭田にその日はグランドに来なくていいと言われて(これは何かある)とピンと来たのだった。それで莉緒は大会関係者たちが出入りするスタンドとは逆側のスタンド下の半地下に蛭田には見つからないように潜んでいたのだった。そのスタンド下の半地下からもグランドの様子は少し遠目にはなるが見通すことが出来たのだった。遠目にも秘書の花音が着て来たピンクの上着と白いミニスカートの姿はあでやかに映えて見えたのだった。その花音の姿が見えてすぐ、莉緒のスマホにもラインの着信があったのだった。
<今日来てる市長代行の早乙女花音はノーパンらしいぞ>
差出人は匿名になっているので誰が流したかは不明だったが、ターゲット・バードゴルフの仲間の一人であるのはすぐに分かった。莉緒も直前に同じグループの一員にライン登録させて貰っていたからだった。
<ノーパンって、本当?>
<いや、まさか。それはないだろ>
<あんな短いスカートでノーパンだったらやばいぞ>
<挨拶で檀上にあがったらちょっと腰を屈めて見てみようぜ>
<ううむ いまひとつ見えそうで見えないな>
<始打式をやるそうだから、スィングした時にスカートが翻るんじゃないか?>
<それは絶交のチャンスだな>
<スマホのカメラで撮ろうぜ>
次々に老人たちが遣り取りしているラインのメッセージが莉緒のところにも届いていた。莉緒が同じライングループの中に混ぜて貰っていることは殆んどの会員は知らない筈だった。
そのうち、花音がフルスィングで始打式をする瞬間の画像がラインでも送られてきた。スカートは大きく翻っているものの、その下まではぎりぎりで写っていない。
<惜しいな。絶交のシャッターチャンスだったのに>
<ノーパンってのはデマじゃないのか?>
<でもあのミニスカでノーパンだと思うだけで刺激的だな>
老人たちのラインでの遣り取りをリアルタイムで観ながら、遠くでプレイしている花音が本当にノーパンなのではないかと言う気がしてきた。蛭田が何か仕込んでいるのではないかと思ったからだ。
<今、腰を屈めたぞ 何も穿いてないように見えた気がするが>
<俺もノーパンだったみたいに見えた>
<俺も>
<誰か写真撮ってないのか?>
<撮ったぜ ばっちり写ってる>
その直後にライン上に何も穿いていない花音のスカートの中の画像が載ったのだった。
<やっぱりノーパンじゃないか>
<他にはないのか? 誰かもっとよく見えるやつ撮ってないの>
(それにしては蛭田の姿が見えないのは変だわ・・・。)
そう思って、莉緒は密かに管理事務所の方へ行ってみることにしたのだった。大会関係者は皆グランドの中に居る筈で、管理事務所内は居るとすれば蛭田一人の筈だった。そっと音を立てないように事務所内に滑り込むと、蛭田がいつも居る机のある部屋の外まで行ってそっと中を窺う。すると蛭田が机に置かれたパソコンに向かって食い入る様に画面を見つめているのが見えた。
(あれは、グランドに設置された防犯用の監視カメラの映像だわ・・・。)
蛭田の背中越しに一部しか見えないが、パソコン画面に写っているのはまぎれもなく競技中のグランド内部の映像なのだった。
(いつもこうやって監視していたのね。私がランニングパンツをグランドで下ろすように言われた時も、こうやって見ていたんだわ。)
莉緒は嘗てグランド内で二度ほど恥部を晒すように命令されたことを思い出していた。
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