バスタオル一枚

妄想小説


走る女 第二部


 五十八

 たっぷり30分、花音を全裸にバスタオル一枚の格好でスタンド下のシャワー室に放置してから蛭田はレジ袋に入れた濡れたままの、そして自分の精液を沁み込ませた下着と花音が管理人室の更衣室で着替えたスーツを持って再びやってくる。
 「花音ちゃん、随分待たせちゃって申し訳ない。それにもうひとつ謝らないといけないことがあるんです。乾燥機に入れて干しておいた筈だったのに、時間が経って取りに行ってみたら乾燥機がどうも壊れちゃったみたいで全然乾いてなかったんです。で、これ以上待たせててもいけないと思って、取り敢えず着替えと濡れたままですが下着も持ってきたんですが・・・。」
 申し訳なさそうな顔を装いながら蛭田は服をレジ袋に入れた濡れた下着と共に手渡す。
 「いえ、こちらこそお手間を取らせて申し訳ないです。あの、大丈夫ですから、わたし。」
 そう言いながらも顔は若干ひきつっている。その表情を心の中でゆっくり愉しみながら観ていた蛭田だったが、突然気がついたように言う。
 「あ、着替えるんですよね。私、向こうへ行っていますから。今日はもうこれで結構ですから、帰る時、管理事務所に寄って声を掛けてください。」
 「わかりました。いろいろありがとうございました。」
 それだけ言うとシャワー室に花音を残してそそくさと管理人室に戻る蛭田だった。そしてパソコンを再び開いて、着替えを始める花音の様子を監視カメラを通して覗き見るのだった。

 返して貰った下着を袋から出してみた花音は水が滴るほどではないものの、まだじっとり濡れているショーツとブラを触ってみて、下着無しで帰るか濡れたままで身に付けるか迷っていた。軽く絞ってはある様子だが、男の手で自分の下着を触られ、絞られたのだと思うと、裸の肌を触られたような気分だった。一旦下着なしでスーツを着込んでみたものの、スウスウするのが心許なく、もう一度シャワーの排水口のところで自分で絞り直してみる。ほんの数滴、水がしたたり落ちただけで、濡れ具合は殆ど改善しなかったがノーブラ、ノーパンで歩いて帰るのは心許なく、体温でそのうち乾くだろうと上着とブラウスを再度脱いでブラを着け、スカートは穿いたままでショーツも足元から引き上げる。じとっとした感触が気持ち悪かったが我慢することにする。その全ての様子を監視カメラを通して蛭田に覗かれていたなど、思いもかけない花音だった。

 「あの、それでは今日はこれで失礼させて頂きます。」
 背中を向けていた管理人に後ろから声を掛けた花音だった。その声にすぐに蛭田は振り返る。
 「あ、着替え終わりましたか。大丈夫ですか?」
 着替えをしている様子は全て覗いて知っていながら、濡れた下着はどうしたのだろうというような顔をして見せる。が、手に下着をいれた袋を持っていないことから、濡れた下着を身に付けたのはバレバレの筈だと思う花音だった。
 (それでは)と軽く会釈しようとした花音だったが、その途端に管理人の携帯電話に着信が入るとそのタイミングを逸してしまう。
 「あ、市長ですか。あ、今終わったところです。・・・。ええ、そうです。・・・・。あ、それはどうか?」
 すぐにも帰りたいところだったが、市長からの電話らしいと気づいた花音はそれを無視して帰る訳にもゆかなくなってしまった。何か伝言があるだろうと思ったからだ。しかし、管理人と市長の電話はなかなか終わりそうもなかった。その間にもじわりじわりと濡れた下着の水分がぴったりしたスーツのスカートに沁みてきそうで気が気ではない花音だった。
 「あ、じゃ今、替わりましょうか?」
 最後の方で市長との電話を代わりそうな気配になったので、手を伸ばしかけたところだった。
 「あ、そうですか? わかりました。じゃあ、伝えておきます。ごめんください。」
 市長は自分には代わらずに電話を切ったのだと悟る。
 「あの、市長は何ですって?」
 気になって花音の方から聞いてみる。
 「ああ、市長から明日もこちらに出るように伝えて欲しいというんです。早乙女さんの方は都合は大丈夫ですか?」
 それまで花音ちゃんと呼んでいたのをよそよそしく苗字に言い替えた蛭田だった。
 「あ、わたしでしたら大丈夫ですけど・・・。それでは、明日、同じ時間にこちらに参りますので。」
 「では、明日。またお待ちしていますので。」
 そう言って帰ってゆく花音の後姿をじっと注目していて、スカートのお尻のあたりに濡れて来た跡が薄っすら付いてきているのを確認した蛭田だった。

スカートの沁み

 実は市長から掛かってきた電話というのは蛭田の芝居で、まだ市長室に居る莉緒に掛けさせたものだった。
 <このメールが来たらすぐに俺の携帯に折り返しで電話を入れること。話は全部無視しろ>
 そう書かれたメールを自分の携帯で受け取った莉緒はすぐさま折り返すと、まるで市長と電話しているかのような蛭田の声が聞こえてきたのだった。

花音

  次へ   先頭へ




ページのトップへ戻る