妄想小説
走る女 第二部
七十五
そしてターゲット・バードゴルフの開催日の前日になって市長の元に送られてきたケースに入ったゴルフのパターのようなクラブと、ウェア、靴、サンバイザーのロゴ入り帽子を受け取った花音だったが、自分のアパートに持ち帰って部屋でウェアを試着してみてそのスコートの短さに驚いていた。
(これを着てゴルフまがいのゲームをするのか・・・。)
短いスコートには一応、アンダースコートと呼ばれる見えてもそれほどエロティックには見えない疑似的な下着のようなものが付いていた。それはショーツというよりショートパンツに近いもので、アイドルタレントが舞台上でスカートが翻ってもいいように穿くものに近かった。
(まあ、アンスコをショーツの上から穿いていればいいか。)
安易にそう納得してしまった花音だった。
「あの、協会の方に送って頂いたウェアに着替えたいのですけれど更衣室を使ってもよろしいですか?」
花音は二日間世話になったグランド管理人の蛭田に管理人室に付随している掃除婦たちが作業着に着替える更衣室を使っていいか申し出る。
「ああ、どうぞ、どうぞ。気兼ねなくお使いください。」
蛭田のその言葉に持参した着替えを持って更衣室に向かった花音だったが、更衣室に入るや否や自分のスマホに送られてきたメールに反応する。
(あら、何かしら。あれっ? このメアド、誰からかしら・・・。)
そう一瞬思った花音だったが、それがグランドの留守番を言い渡されてストッキングで覆面をした男に襲われた後の夜、自分をグランド男子トイレに呼び出した謎のメール送信者だと気づいて戦慄を憶える。
<今日のターゲット・バードゴルフではスコートの下にショーツもアンスコも一切着けることを禁じる。ノーパンで出ること。背けばこの画像をあちこちに貼り出す。>
そう書かれたメッセージの後に添付されていたのは、あの日撮られたらしい花音が誰にも見せたくない画像なのだった。
(え? こ、これって・・・。)
それはまさしくあの日、花音がグランドの男子トイレに呼び出されて全裸になるよう強要され首を繋がれてひと晩を過ごしたその場の画像なのだった。目の部分は黒塗りで隠されてはいるものの、命令に従わなければ黒塗りは外してあちこちにばらまくぞと言う脅迫に他ならなかった。
(やっぱり、あの時写真まで撮られていたのだわ。どうしよう・・・。)
花音に判断の為残されていた時間は殆どなかった。意を決して一旦は身に着けたアンスコとショーツを脱ぎ捨て、持ってきたバッグに押し込むとノーパンのままグランドの会場に向かったのだった。
「ああ、早乙女さん。とってもお似合いですね、そのウェア。うちの若いのが選びに選んだウェアなのですよ。そんな姿で我々の前でプレイして頂ければ、我々年寄り連中の意気もあがるってもんですよ。」
勝手なことを言う大会主催者たちの前で、気もそぞろに受け答えをする花音だった。
「えーっと、ターゲット・バードゴルフは初めてとかお聞きしましたが、事前のレクチャーを一応考えておるのですが・・・。」
「ああ、ゴルフのスィングだけでしたら、普通のゴルフで経験はあるので・・・。」
「あ、そうですか? ならあんまり説明は必要ないかもしれませんね。スィングの基本は普通のゴルフと何等変わりませんので。チャー、シュー、メーン。ああいった感じです。」
「ああ、そうなのですね。だったら大丈夫と思います。」
花音は手取り足取りで教えたがっている運営関係者たちの事前レクチャーを何とか退ける。
関係者たちを先にグランドに行かせて、花音は皆が居なくなったところで管理人室入口にある姿見で自分の姿を映してみる。スコートはかなり短く心許ない。しかし、普通に立っていればスコートの中が覗いてしまうことはない。試しに膝を折ってしゃがんでみる。
(不用意に脚を伸ばしたまま屈みこんだりしなければ、パンティを穿いてないことは気づかれないかもしれないわ。)
そう思うと、勇気を奮い立たせてグランドに向かう事にしたのだった。
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