妄想小説
走る女 第二部
七十四
「市長。わたしが不在だった二日間に何か困るようなことはありませんでしたか?」
秘書の花音にそう訊かれて今度は権田のほうがどきっとする番だった。莉緒が代りに来たというのは、話そうとして寸でのところで喉元に留めた。莉緒からどんな命令を受けたかに話が及びかねないと思ったからだ。
「いや、大丈夫。偶々かな。特に外部からの要請とかは無かったから。市議も問題なくこなせたし・・・。」
莉緒に命令されて権田がやらされた様々なことが脳裏を掠めるが、それはすべて花音には伏せておかねばならないことだった。
「それより君はターゲット・バードゴルフというのは知ってるのかね。」
「ああ、聞いたことはありますが具体的にはどういうスポーツなのかは存じ兼ねます。」
「まあ、君のような若い人には縁がないスポーツだろうからな。いや、今度君に行って貰う大会では、運営主催する自治体協議会から是非に私にも競技に参加して欲しいという要請があったんだが、ずっと膝の不調を理由に断わっていたんだ。それが今回、代理として君に行って貰う話をしたら、是非君には招待競技者として参加して欲しいというんだよ。」
「え、ターゲット・バードゴルフなんてやったことありませんから・・・。」
「ああ、それなら大丈夫。事前に向こうで遣り方をレクチャーしてくれるそうだから。それに道具やウェア、靴なんかまで用意してくれるそうだ。」
「え、でも・・・。」
「ずっと前から参加して欲しいというのを断り続けてきて不義理をしてるんで、今回君みたいな若い人が代理だったらその不義理が解消できると思うんだ。向こうもそれを聞いてかなり乗り気でね。わたしを助けると思って、何とか参加してくれんかね。」
「え、普通のゴルフだったら祖父に誘われて何度かコースに出たことはあるんですが・・・。」
「そうか。本物のゴルフはやったことがあるのかね。それだったら多分大丈夫だ。いや、それに別にいい成績を取る必要な無いんだ。却って下手なほうが愛敬があっていい。下手ながら参加してくれたのだということになれば、向こうの顔も立つしな。」
「そう・・・でしょうか。」
きっぱり断らなかった為に招待選手としてゲームに参加まですることになってしまった花音だった。
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