妄想小説
走る女 第二部
六十三
「市長、お早うございます。」
市庁舎に登庁して自分の執務室に入る為に応接室を兼ねている秘書控え室を通り抜けようとして、莉緒に挨拶されて権田は思わずぎくりとする。前日に次の日も本当の秘書の代りにグランドで雇われているらしい西岡莉緒がやって来ると聞かされていたのに、実際いつもの花音ではない顔を見て、どきりとしたのは意外性の為だけではないと権田は気づいていた。今日この市長室で起こるであろう事を予期出来ないだけに怖ろしさのような、しかし期待に近い感情が沸き起こるのを抑えきれないのだ。
「ああ、今日も君が面倒をみてくれるのだったね、西岡くん。」
(面倒をみる)という言い方を自分でしておいて、違う意味合いをどうしても考えてしまう権田だった。
「はい。本日も心を込めてお世話をさせて頂きます。」
莉緒が言う(お世話)という言葉にも、どうしても違う意味を酌みとってしまう。
「まず着ているものを全部脱ぎ取って頂きます。」
市長室の扉を閉め、内側からロックを掛けるなり莉緒はそう言い放つ。
「いきなり・・・かね。秘書控え室の扉もロックはしてあるんだろうね。」
「ロックをして市長面会中の札も出してあります。」
「そうか、わかった。」
そういうと、観念したかのようにネクタイを外し、背広を脱ぎ捨てる。ワイシャツを脱ぐ前にズボンをおろしたのは、その決心を表すかのようだった。最後にブリーフ一枚になってから、ふうっと大きく溜息を吐くとブリーフを脱ぎ下ろす。股間には萎えた男性自身が情けなさそうにぶらりとぶら下っている。
「これでいいかね。」
「『手錠をお願いします』と言うのです。」
「うっ・・・。わ、わかりました。莉緒さま。手錠をお願いします。」
そう言って両手を揃えて前に出す。
「後ろ手に決まってるでしょ。」
ぴしゃりと莉緒がそう言い放つと、申し訳ありませんでしたとばかりに首を項垂れて背中をみせ、両手を後ろに出す。
ガチャリという冷たい金属音がして市長が素っ裸で拘束される。
「そこに跪くのです。」
莉緒はバッグに忍ばせてきた麻の荒縄を取り出しながら市長に指示する。昨晩にわか勉強で憶えてきた亀甲縛りを市長の身体を使って初めて実演してみる莉緒だった。
「うっ、こ、こんなにするのかね・・・。」
「ふん、嬉しいくせに。」
「嬉しい・・・だって?」
「そうよ。その証拠に、あそこが大きくなってきてるわ。」
締め方を一層きつくしながら、莉緒は市長の股間を指摘する。市長自身も言われる前から自分の身体の変化を感じとっていた。縛りをきつくする為に縄を後ろに廻す度に、ぐいっと強く引っ張る度に、市長のペニスがぴくんと敏感に反応するのだった。
「さて、これでいいわ。私も初めてだったけど、案外うまくいったみたい。」
莉緒の言葉に、市長自身も下を向いて身体中に菱型の形で縄が張り付いているのをあらためて確認する。
「次はおむつを当ててあげるわ。立って脚をがに股に開くのよ。」
「お、おむつって・・・。まさか。」
「大人用の紙おむつよ。したこと、ないでしょ。要介護の老人がこれだけ増えた世の中よ。市長たるもの、紙おむつぐらい経験しておかなくちゃ。介護老人の気持ちが理解出来ないでしょ。」
思ってもいない事を莉緒は口にする。しかし全ては蛭田に教えられた台詞なのだった。
勃起しかけた市長のペニスは分厚い吸水体で出来た紙オムツの中に包まれて見えなくなる。
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