妄想小説
走る女 第二部
七十二
市長は市長室の扉をそっと薄っすら開くと秘書控え室の様子を窺ってみる。秘書の席には花音の姿はなく、応接セットの近くに置いてあるライティングデスクのところで寝落ちしてしまったらしい花音が机に突っ伏して寝入っているのが見えたのだった。
(確か前の晩、殆ど眠れなかったような事を言っていたな。)
権田は朝の秘書との会話を思い返していた。その眠り込んでしまっている秘書の膝が少し緩んでいるのが見える。権田は音を立てないようにゆっくりと花音に近づいていくと、膝を屈めてライティングデスクの下の花音の開かれた膝の間を覗きこんでみる。
権田は机の下に見たものに思わず生唾を呑みこむ。まさかと思いながら覗きこんだ花音の股間はパンティを穿いてないばかりか、無毛の陰唇が丸見えだったのだ。
(こんなチャンスは滅多にあるもんじゃない・・・。)
そう思った権田は胸のポケットからスマホを取り出すとカメラにセットする。
カシャッ。
シャッター音を模した電子音が響いたが花音は目を覚まさなかった。自分の秘書のあられもない姿を盗み撮りした権田は、普段はあまり使われていない宿直室に毛布があったことを思い出し、花音に掛けてやる為に取りに行くのだった。
(あ、いけない。寝てしまったんだわ・・・。)
目を覚ました花音はライティングデスクの上に突っ伏してつい寝込んでしまったことに気づいて起き上がろうとして、自分の背中に毛布が掛けられていることに気づく。しかもその毛布の一部は膝の上にも掛けられているのだった。その時、花音は自分がノーパンだったことを思い出してはっとする。
(まさか、誰かに見られたのでは・・・。)
すぐに辺りを見回すが、秘書控え室には誰の姿もなかった。
コンコン。
「あの、市長・・・。」
「あ、早乙女くん。何かね?」
「あの・・・。毛布、市長が掛けてくれたんですか?」
「ん、毛布? 何の事かね。」
「あ、いや。いいんです。」
「ああ、ちょうどいい。早乙女くん。今度の日曜日、出勤出来ないかね。勿論、その分の代休は取っていいんだが。」
「今度の日曜日ですか・・・? 急ですね。ああ、でも大丈夫と思います。」
「実は、例の市営総合グランドで、ターゲット・バード・ゴルフっていうのの大会があってね。私が行って挨拶をすることになっているんだが、その日はちょっと別の会合があってね。もし出来たら君に市長代理っていうことで出て欲しいんだが。」
「市営グランドって・・・。昨日まで私が行ってた所ですか。」
「ああ、そうなんだ。前にゲートボール大会で一緒に行ったよね。あんな感じらしい。」
市営グランドと聞いて、思わずひるんでしまうが、断る理由が思い当らなかった。
「わかりました。市長代理の挨拶をすればいいのですね。」
「やってくれるかね。ああ、それなら助かる。重なってしまって、どうしようかと思っていたんだ。」
市長室に毛布を掛けてくれたのが市長なのか確かめに行っただけのつもりだったが、別の要件を頼まれてしまった花音だった。それもよりによって、出来ればもう近寄りたくない市営グランドでの業務なのだった。
(毛布は、市長でないとしたら誰だったのだろう・・・。もし誰か別の人がたまたま秘書控え室に来て寝込んでしまった自分を見つけて毛布を掛けてくれたんだとしたら・・・。)
自分の失態を見たのが誰なのか聞き回っても誰も答えてはくれないだろうという気がした。
(開いた膝の奥を見られて、それも隠す為に膝の上にまで毛布を掛けていたのだとしたら・・・。わたしが実は見てしまいましたとは決して言わないだろうな。)
そう思うとやるせない気持ちになってしまうのだった。
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