オムツ放尿

妄想小説


走る女 第二部


 六十六

 市議会が開かれる大会議場までは莉緒が先導して出掛けていく。途中、「ちょっと。」と言って男子トイレに入ろうとした市長を莉緒がきつく窘める。
 「今日一日は、行ってはいけないと言った筈よ。」
 「あ、ああ・・・。そうだった。」
 すごすごとトイレの方から戻る市長は既に首を項垂れている。大会議場に入るまで見届けると莉緒は恭しく一礼して戻って行く。権田に尿意の限界が訪れたのは野党議員から最初の質問を受けている最中だった。その前からしきりに額の汗をハンカチで拭う市長の姿に、誰しもが答えに窮しているのだと錯覚していた。しかし市長はと言えば、股間に当てられたものが気になって質問はうわの空だったのだ。
 (う、も、洩れる・・・。)
 最初に漏れ出る瞬間は、苦々し気な表情になってしまう。が、誰もがまさか市長が紙オムツの中に放尿したせいだとは思ってもみないのだった。

 「あら。お帰りなさい、市長。市議はどうでした?」
 莉緒がそらっ恍けて市議から帰って来た市長を出迎える。
 「市議どころじゃないよ。いつ洩れだすんじゃないかとひやひやだったんだからな。」
 「最近のものはとても性能が良くなって、洩れだすなんてことはないそうですよ、市長。」
 「ううむ。もう、いいかね。これを外しても。」
 「また、したくなったんですね。駄目です。もう一度、ここでするんです。そのままで。あ、待ってください。今、ビデオカメラ、用意しますから。」
 「わ、わたしが洩らすところを撮ろうというのか?」
 「さ、いい表情をなさってくださいな。」
 そう言って困惑顔の市長の前にビデオカメラを構える莉緒だった。

 「あの・・・、蛭田さん。シャワー室のほうは片付けてきました。」
 花音はか細い声でそう声を掛けて管理人室へ戻ってきた。片付けてきたという言葉を使ったのだが、実際には床に洩らした小水を念入りに水で流してきたという意味だった。排水口は特に臭いが残るのではと丁寧に水を流し続けたのだった。
 「ああ、大変だったね。え、であれは大丈夫?」
 管理人の目は明らかに自分のスカートの方に向けられているのに花音は気づく。
 (あれは・・・というのはパンツを穿いたままおしっこを洩らしたのだと思っているのだわ。)
 「あ、大丈夫です。自分で何とかしましたから。」
 どうしたのかは言わずに言葉を濁す。パンティを奪われて最初から穿いてませんでしたからとはさすがに言えない。

ノーパン疑惑

 「ああ、そうなんだね。」
 そう言いながらもまだスカートの方を見続けている蛭田の目に、自分がノーパンで居ることを想像しているのだといたたまれない気持ちになる。
 「何があったんだね。話してくれるね?」
 花音は暗い気持ちになる。何も言わない訳にはゆかない。しかし全てを話す訳にもゆかないのだった。
 「あの・・・。多分、最初の見廻りの時だったと思います。スタンド下の半地下の方へ降りていったら、あちこちの部屋が荒らされていて・・・。泥棒じゃないかと思ってすぐ知らせようと携帯を取りにこちらに戻ろうとした時に後ろから羽交い絞めにされたんです。ナイフを持っていて、声を出すなって言うんで、私ふるえてしまって・・・。」
 「犯人の声を聴いたんだね。」
 蛭田は知っていてそう質問する。
 「あ、いえ。声を出すなって合図をしたんです。ストッキングのようなものを頭に被っていて顔も判りませんでした。」
 「で、どうしたんだね。」
 「あの・・・、押し倒されて両手を縛られたんです。ずっとナイフを当てられてて何も出来ませんでした。」
 「で、大丈夫だったのかね・・・。その・・・、身体のほうは?」
 蛭田が言っているのは犯されたのではという意味だとすぐに花音は気づく。
 「身体のほうは、多分何もされてない・・・と思います。確か、誰かが来るような気配がして、その男も慌てて逃げようとしてました。逃げる前に何か薬のようなものを嗅がされたんだと思います。それから意識がなくなって・・・。」
 「そうだったのか。じゃ、随分長い間、あそこに転がされていたんだね。」
 それは暗におしっこが我慢出来なくなるほどの時間という意味がこめられていた。
 「あの、警察には届けたりするんでしょうか?」
 花音は起こったことをあれこれ詮索されて訊かれるのではないかとそれが心配だった。
 「さっきちらっと見たけど、盗られたものはなさそうだし警察まではいいかなと。君も無事だったみたいだし。いろいろ訊かれるのも嫌だろ?」
 「あ、ええ・・・。」
 管理人が警察に届けるつもりがないことを知ってほっと安堵する花音だった。
 「以前にね下着泥棒に入られたことがあってね。街の女子サッカークラブが合宿で使っていた時期があって、着替えなんかをロッカーに入れっ放しにしていて盗まれたんだよ。それ以来、合宿なんかがあっても着替えは必ず持ち帰るようにさせて。だから、何も盗まれて困るようなものは今は無い筈なんだ。」
 「下着泥棒・・・ですか。」
 花音は自分の下穿きが盗られたことで、そういう目的だったのかとも思い始める。
 「今日はもうあがっていいよ。大変だったろうし。明日は市庁舎の方へ出るんだったよね。」
 「ええ、そうです。じゃ、ロッカーに荷物を取りに行ってきます。」
 管理人との話はそれで打ち切って事務所の外の廊下にあるロッカーに荷物を取りに行く。

花音

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