拉致連行

妄想小説

ワンピースの女



 三十四

 国技館の出口を出た時に、遠くのほうで見覚えのある白いリムジンが車寄せに入ってくるのが見えた。
 (キヨが乗っている迎えの車だわ。)
 しかし貴子にはそれに近寄るのも、合図するのも何の術もないのだった。男は貴子の二の腕を強く牽いてわざとひと気の多い方へ選ぶように歩いて行く。そしてその事が貴子に男を振り解いて逃げようという勇気を失わせるのだった。
 「今日はワンピースじゃなくてツーピースのスーツドレスだな。じゃあ、スカートだけ剥ぎ取るのも楽に出来るって訳だ。」
 男はそういいながら貴子の腰に手を回し、スカートを腰の所で留めておくボタンを探り当てて器用に外した。それから両手をそのボタンを外した辺りに手を掛ける。ビリッという鋭い布裂きの音が聞こえた。
 「こうしておけば、あとは強く引っ張るだけでこのスカートは簡単に剥ぎ取れるってわけだ。そうされたくなかったら、大人しく一緒に歩いていくんだぜ。いいな、お嬢ちゃん?」
 貴子は恨めしそうに男を睨むが、(わかった)とばかりに首を縦に振るしかなかった。

 男が貴子を連れ込んだのは国技館の建物から数ブロック歩いた先にあるデパートだった。一階の奥にあるエレベータへ乗り込むよう促され、数人の客と共に庫内に入る。エレベータが上へ向かって動き出した瞬間から男の手が貴子のスカートに伸びてきた。庫内の壁に背を向けるようにして立っている貴子のお尻の部分は他の客からはかろうじて見えない。それをいいことに男はスカートを捲り上げ太腿の上まで捲り上げたところで指を太腿の内側に滑り込ませる。
 (うっ、ぐぐぐっ・・・。)
 声を出せば他の客が一斉に自分の方に向き直るのが判っているだけに貴子は呻き声一つ挙げられない。男の指は腰に巻かれたまわし代わりの帯の中に侵入しようとしていた。貴子はひたすら我慢して括約筋を絞める。
 ピン・ポーン。
 音がして四階まで上がったエレベータの扉が開く。
 「ちょっと御免よ。」
 さっと貴子のスカートから手を引き抜いた男が貴子の腕を取って客の間を擦り抜ける。エレベータを降りた二人は婦人服売り場を突っ切って階段に繋がる踊り場に出る。階と階の間にトイレがあるのだった。男は上からも下からも誰も来ないことを確かめてから男子トイレ、女子トイレの間にある身障者用の多目的トイレに貴子を押し込んだのだった。

貴子

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