門帰宅

妄想小説

ワンピースの女



 二十五

 門の前で後ろ手でインタホンのボタンを押す貴子を中に招じ入れてくれたのは乳母代わりの召使のキヨだった。マスクは既に剥ぎ取られ唇からは挿し込まれたままのマウスピースが丸見えだし、キヨが出掛けに腰に巻いておいた筈の赤い帯は貴子の背中に回した両手首を縛って、残りを長く引き摺っている。着ていたワンピースはあちこちが破けて白い肌がところどころ露出している状態だった。
 キヨは貴子の様子をひと目みると事態を察したようだった。すぐに貴子の戒めを解くでもなく、自分が着ていた上っ張りを脱ぐと貴子の肩に掛け、そのまま源蔵の寝ている部屋へ連れて行って自分は引下がったのだった。
 「どうした? 縛られているのか?」
 まだマウスピースを外して貰えず、喋ることの出来ない貴子は小さく頷いた。
 「犯されたのか?」
 今度は小さくかぶりを横に振る。
 「こっちへ来なさい。」
 源蔵は傍らのテーブルに置いてあった鋏に手を伸ばし、貴子の頭を引き寄せるとマウスピースを頭に固定している糸を切り、貴子の口からマウスピースを引き抜く。貴子の口からは粘っこい唾液が糸を引いて垂れ堕ちる。
 「ぷふうっ。」
 貴子は漸く長い息を吐く。源蔵は背中の手首にも手を伸ばし、貴子の両手を縛っている帯を解いてやる。自由になった途端に貴子は安堵からかまなじりに溜まった涙が止まらなくなったのだった。
 「どうか、もうあんな事はお赦しください。」
 貴子の切なる思いを源蔵は聞かなかったかのように独り呟いたのだった。
 「明日は、いよいよ千秋楽だったな。」
 その一言に、貴子は源蔵が自分の願いを聞き入れるつもりがないことを読み取ったのだった。

貴子

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