妄想小説
ワンピースの女
十
「今日は一緒にお前も映っている相撲の中継を録画ビデオで観てみようじゃないか。」
その日も、やっとのことで腰の戒めを許されて解放されて自分の部屋に戻ったばかりの貴子を、源蔵がキヨを使いにやって呼び出したのだった。
源蔵はベッド際に設置された大型テレビモニタとベッドの間に、国技館の桟敷席のような大き目の座蒲団を敷かせて貴子をそこに座らせるのだった。貴子はベッド上の源蔵に背中を見せるように座っているのだが、自分の表情は源蔵には見られない筈なのにそれが見ているかのように手に取るように判る筈なのが、座蒲団を針の筵のように感じさせるのだった。
そしてあの瞬間がやってくる。貴子は下を向いて気づかない振りをしようとしたのだが、源蔵はここぞとばかりの時に貴子にリモコンでそのシーンを早戻しさせて繰り返し映像を再生させるのだった。
「貴子、今のシーン。顔をよく見てご覧。ほら。大関がいい表情をしているよ。」
源蔵は大関の表情と嘯いているが、本当は自分の顔の表情のことを言っているのだと分っていた。貴子はテレビ画面の中で自分が腰を少し浮かし掛けるところを源蔵がしっかり気づいている事を知らされ、その上でそのシーンを何度も繰り返し見させるのを、恨めしい気持ちで居続けたのだった。
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