貴子正座

妄想小説

ワンピースの女



 一

 「それはお仕置きということですか。」
 「そうだ。お仕置きとしてお前はあそこへ行くのだ。」
 「どうして相撲の観戦などというものがわたしへのお仕置きになるのです?」
 「お前はあそこで命じられた通り、正座して姿勢を崩さずじっと堪えねばならないからだ。」
 「それがどうしてお仕置きになるのですか。」
 「お前があそこで姿勢を崩さずにじっと堪えていれば、否が応でも衆目の視線に晒されることになる。そこで注目されているお前が苦しそうにすれば、まわりはお前がその姿勢を強要されていると悟ってしまうだろう。そんな苦しさに耐えねばならない哀れさをお前がよしとする筈もあるまい。苦しさを耐え忍んでいるのを悟られまいと必死で平気な振りをするのだ。しかしそれが堪えがたい苦行であることは私だけが知ってじっと見ている。だからこその仕置きなのだ。」
 「わたしを苦しめることがそんなに楽しいのですか?」
 「苦しめるのがではない。苦しいのに、そうとは悟られまいと必死で堪えているお前を想像することがこのうえない快楽を私にもたらすのだ。」
 「わたしには随分、意地悪なのですね。」
 「そうだ。お前を虐めることが私の何よりの御馳走だからな。」
 「相撲を三時間観るぐらい、耐えてみせますわ。」
 「ふふふ。お前には儂の好きなあのワンピースを着て行って貰うからな。」
 「あのワンピースは外へのお出掛けには少々若作り過ぎませんか?」
 「儂の趣味だからな。それに髪も儂の好きなポニイテイルにして貰おう。」
 「あのような若作りで外へ出るのは恥ずかし過ぎます。」
 「だから良いのだ。お前の若作りを周りから好奇の目で見られるという訳だ。今の時期、マスクは常時着用だろうから、年齢不詳と見られる筈だ。それが余計に周りの好奇心をそそるのだ。ただ三時間相撲を我慢して観るのではない。三時間の好奇の視線に晒されるのを我慢するという訳だ。」
 「わたしを見世物にしようというのですね。」
 「その通りだ。儂はここでテレビで観戦しておるからな。あの席は花道のすぐ横の砂被りだ。立ちあいのビデオ再生では必ずテレビに映る位置だからな。ちゃんと大人しく正座しておるのだぞ。言わずもがなだが、結びまでトイレに立つことも赦さぬ。よいな。」
 「・・・。わ、わかりましたわ。」
 そう答えたものの、貴子にはその責め苦に耐えきれるのか自信はないのだった。

貴子

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