脅し

妄想小説

ワンピースの女



 二十七

 「憶えていてくれたかい、お嬢ちゃん。随分といい席にたった独りで観戦とはいい御身分だな。ん? どうしてここがって顔をしてるな。昨夜逃げる時にお土産を放り出して走り去っただろ。国技館で売ってる土産品だというのはすぐに判ったのさ。乗って来た地下鉄の駅も両国だったからな。相撲観戦帰りだろうとすぐに見当をつけたのさ。それで昨夜の取り組みのテレビ放映を録画で観返してみたら、ちゃんと映ってるじゃないか、お前さんが。」
 貴子はまさか男がテレビ放映でここを嗅ぎつけるなどとは思ってもみなくて、目を丸くして狼狽えている。
 「返事をしないところをみると、昨日と同じものをそのマスクの下に着けさせられてるようだな。へっ、まあ返事はしなくてもいいぜ。するとその服の下には昨日と同じものを着けてるって訳だ。そうか、なあるほど。相撲の力士と同じ格好をして観戦って訳か。洒落てるじゃないか。いったい誰の趣向なんだい? ここに独りで座らせられてるところをみると、お前のご主人様はテレビでお前の観戦中って訳だな。」
 男の手がさり気なく正座している貴子の背中側の腰の辺りに伸びてくる。
 「あぐっ・・・。」
 思わず呻き声が洩れるのをやっとのところで抑える。男の手は貴子の襞スカートの薄い生地を通して、尻を割っている帯締めのまわしを探り当てていた。
 「昨日は随分な目に遭わされたからな。これが終わったら、たっぷりお返しはしてやるぜ。愉しみにしてな。」
 そう言うと、貴子に久々に出会った知り合いが挨拶に寄ったかのように見える仕草をしながら男が升席から立ち上がった。ちょうどその時、優勝決定戦を行う力士たちが入場し、あたりは騒然と沸き立ち始めていた。

貴子

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