僧院回廊

妄想小説

尼僧院物語



 五

 やっと下半身裸の状態でなくなった涼馬は、かねてより考えていたことを実行に移すことにする。自分の居る離れから出て修道院内を歩き回ってはいけないと言われていた。しかし、自分が連れて来られた場所がどんなところなのか、自分の目で確かめておきたかったのだ。自分がここまで這うようにして歩いてきた時に杖として使っていた棒切れが入口の扉の近くに立てかけてあった。それを頼りにして、痛む足を引き摺るようにして歩いてみる。遠くまでは歩けそうにもないが、体力は回復してきていたので杖があれば少しなら歩けそうだった。
 扉を薄目に開いて外に誰も居ないことをじっくり確かめてから扉の外にゆっくり踏み出す。出てすぐに屋根の付いた渡り廊下があって、その先に石造りの古そうな洋風の建物が建っている。ちょっとした古城のような造りだった。離れから続く渡り廊下の先に、古そうだが重くて頑丈そうな木の扉があるのが見える。音を立てないようにそおっと渡り廊下を足を引き摺りながら歩いていく。修道院本館の入り口らしき扉は押しても引いてもびくともしなかった。内側から閂が掛けてあるらしかった。本館内部に侵入するのは無理らしいと諦めかけて戻ろうとした時、入口の扉から少し離れたところに別の扉があるのを見つけた。しかも扉は薄く開いているのだった。涼馬が本館の石壁沿いにそこまで足を引き摺っていくと扉はすうっと開いた。中を覗くと地下へ降りて行く階段が見えた。何処かに明り取りの窓のようなものがあるらしく、全くの真っ暗闇ではない。涼馬は取りあえず、階段の先まで行ってみることにした。
 緩い螺旋状の階段は磨り減った石段で出来ていた。それを一歩一歩、杖を頼りに下っていく。すると大きな木の扉があって、外側から閂を掛けられるようになっている。閂は掛けられていなかったのでそこを開けて更に奥へ進む。木の扉とは別の鉄格子のような扉があって、それも開いていたので中へ忍び込んでみる。

格子地下牢

 涼馬が感じたその部屋の印象はまさしく地下牢だった。
 (確かこういうのを昔の西洋ではダンジョンとか言う地下牢なのだな・・・。)
 そんな事を思いながら中へ入ってみる。薄暗がりの中だが目を凝らすと床に何かある。近くへ寄っていってよく見ると、分厚い二つの板を蝶番で繋げたものだった。それぞれの内側に半月形に溝が三つ切ってあって蝶番を閉じると三つの孔が出来るようになっている。涼馬はふと似たようなものを観た覚えがあるのを思い出していた。西洋の中世時代に魔女裁判があった頃、使われていた拘束具だった。蝶番を閉じて合わせると首と両手首を拘束出来るものだ。蝶番の反対側には二つの板を留める留め金もちゃんと付いている。更に見回すと、同じ様なもので二つの孔を構成出来る板を繋いだものがあって、こちらは足枷に使うもののようだった。
 暗い部屋に段々目が慣れてくると、石造りの壁にはあちこちに金具が打ち込まれていて、それらからは古びた鉄の鎖が何本も垂れ下がっている。
 (何なんだ、これは・・・。)
 壁からぶら下っている鎖と鉄の輪を仔細に調べようと近寄った時だった。
 「誰かそこに居るの?」
 聞き覚えのある声と蝋燭のゆらめく光が階段の上から近づいてくるのが判った。

tbc
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